『記憶ゼロ』舞台挨拶
10月27日(火)、第39回東京国際 映画祭ガラ・セレクション部門で、映画『記憶ゼロ』が日本初上映を迎えた。丸の内ピカデリーでの上映後舞台挨拶には、SABU監督、堤 真一、霧島れいか、台湾から来日したアキラ・ホァン(黄冠智)が登壇。司会は、本作のプロデューサーでもある映画祭プログラミング・ディレクターの市山尚三が務めた。
監督のSABUは、「日本での上映は緊張します。海外とは違い、日本のお客さんは反応が固いこともあるので」と緊張を吐露しつつ、「今日はすごく喜んでもらえてよかったです」と笑顔で挨拶。『弾丸ランナー』以来、かつてSABU作品の主演を5作連続で務めた堤は、「久しぶりにSABUとの仕事を楽しみました」と話した。「監督として成長し、素晴らしい映像になっていました。台湾のスタッフも素晴らしかったので、ぜひ1人でも多くの方に観ていただきたいです」。
また、霧島も「日本の皆様に観ていただけることを本当に楽しみにしていました」とこの機会を喜んだほか、来日したアキラは「東京国際映画祭に参加させていただけて光栄です。映画を気に入っていただけたら嬉しいです」と流暢な日本語で挨拶した。
SABUにとって20本目の長編劇映画である本作は、およそ20年にわたり構想を温めてきた念願の企画だ。当初は2007年にドイツに滞在した際、現地のプロデューサーが関心を示したが、なかなか進展せず企画を引き上げた。韓国やニューヨーク、日本でも企画が浮上したもののかなわず、ついに日本・台湾の合作、台湾オールロケという形で撮影が実現したという。
記憶障害と闘いながら、誘拐事件の犯人を追う主人公の刑事役は、『モンガに散る』『我、邪で邪を制す』のイーサン・ルアン。SABUは「シリアスな演技がすごくうまい俳優なので、そのぶんコメディに転がれば、振れ幅が大きくなって面白い」と起用理由を語った。当初の脚本では暴力刑事の設定だったが、「記憶を失っても身体は覚えている、という表現として分かりやすい」と柔道の達人に変更。イーサンは3ヵ月のトレーニングを積んで撮影に臨んだ。
堤と霧島が演じたのは、息子を誘拐された夫婦役。堤は「ほんのわずかしか出ていませんが」と観客を笑わせつつ、自身初の台湾ロケで驚いたエピソードを語った。「現地の定食屋に行ったんですが、メニューが中国語でまったく分からないんです。だけど、翻訳アプリでピッとやったら、全部日本語になって。びっくりしましたね!」と話す堤に、SABUが「 映画の話をしなさい」と突っ込む一幕も。
堤が撮影に参加したのは4~5日間。「台湾は役者とスタッフがみんなフレンドリー。とても建設的でいい現場だと思いました」と振り返る。SABUも「上下関係にかかわらず、それぞれが自分の意見をちゃんと言ってくれる」と同意すると、「撮影が始まるまではスタッフの9割が女性で、現場も若者が多い。僕もお弁当をもらう列に並んだし、そういうところがすごくよかった」と話し、再び台湾で映画を撮ることにも意欲を示した。
霧島も台湾での撮影は本作が初めて。「台湾の良さや、皆様の温かさをすごく感じて、とても親しみを持っています」と話した。東京国際 映画祭に先がけ、台湾プレミアが行われた高雄映画祭にも参加。「明るくて温かい、アットホームな映画祭でとても盛り上がっていました」と現地の様子を伝えた。
アキラが演じたのは、誘拐事件の捜査に巻き込まれる薬物中毒者役。本作で“台湾アカデミー賞”こと第63回金馬奨の助演男優賞にノミネートされ、受賞への期待も高まっている。「監督からは、『この役は本来とても賢いけれど、環境のせいで薬物に手を出してしまった人だ』という話がありました。捜査にあたる若手警官とは対照的で、そこもすごく面白かった」。やつれた体つきに見えるよう、減量にもストイックに取り組んだという。
観客との質疑応答では、出演者3名に「撮影で一番ワクワクしたことは?」との質問が。アキラは「素晴らしい先輩俳優さんや、SABU監督とのお仕事が楽しかった」と答え、霧島は「普段はおとなしい役というか、いいお母さんや、少し病んでいるような役が多いので」といい、本作ならではの役どころを楽しんだことを明かした。
一方の堤は、「台湾・日本合作 映画の台湾での撮影は初めてでしたが、SABUと一緒なので、新しい環境という感じはなかったです」と率直に語った。「だけど、とても楽しい撮影で、台湾料理も美味しかった。とにかく楽しいまんま仕事が終わった感じでした」
作品のテンポについて尋ねられたSABUは、「編集の力が強いと思います」といい、台湾チームと取り組んだ作業について語った。この日、会場に駆けつけた編集のマチュー・ラクロと、プロデューサーのジャスティン・オーからは数多くの意見が寄せられたそうで、完成までに58ものバージョンを制作したという。
最後にSABUは、「どの国でも『面白い』と言ってもらえた脚本。テンポもいいし、サスペンスの面白さもあります」と自信をにじませつつ、携帯電話や監視カメラなど、時代の変化に合わせて内容を書き換えたことを明かした。「台湾はノスタルジックなところも、とても近代的なところもある街。脚本にもすごくマッチして、一番いい形の映画にできたと思います」。
なお、第39回東京国際 映画祭にて11月2日(月)18時30分からの上映にSABU監督が舞台挨拶に登壇する。詳細は東京国際映画祭公式サイトまで。
SABU監督が20年越しの企画を叶えた渾身作『記憶ゼロ』は、第83回ヴェネチア国際映画祭アウト・オブ・コンペティション部門ワールドプレミア、第51回トロント国際映画祭ミッドナイト・マッドネス部門観客賞(第2次席)受賞に続き、10月30日から11月8日に開催される第32回ジュネーブ国際映画祭ではクロージング上映としてアウト・オブ・コンペティション部門に出品が決定している。さらに、中国語圏のアカデミー賞と称される第63回金馬奨にて、日本人 映画監督としては史上最多となる11部門(作品賞・監督賞・主演男優賞・助演男優賞・撮影賞・美術賞・衣装賞・アクション監督賞・編集賞・音響効果賞・オリジナル主題歌賞)にノミネートされ、現地時間11月22日(日)に授賞発表が行われる。
日本劇場公開は、2027年初夏、テアトル新宿ほか全国公開。





