第79回カンヌ国際映画祭公式上映&囲み取材/すべて真夜中の恋人たち
公式上映に先駆けて⾏われたフォトコールでは、この日のために世界に一つだけのオーダーメイドで作られた黒いスーツに身を包んだ岸井ゆきの、シックなスーツ姿の浅野忠信のキャスト陣に加え、背中に大胆なカットアウトが入ったアルマーニのドレスを着用した岨手監督が登場。
海外の報道陣に囲まれ、南仏の爽やかな空に映える眩しい笑顔を見せた。
Photo:(C)Kazuko wakayama
直後に映画祭のメイン会場のひとつであるTHEATRE DEBUSSY(ドビュッシー劇場)にて実施された公式上映では、満席の客席から大きな拍手で出迎えられた3名。
上映前の舞台挨拶で岨手監督は「初めてカンヌ国際映画祭に参加します。今日、ここで作品を観てもらえることが本当に本当に幸せです。宜しくお願いします」と期待と緊張が入り混じりながら端的にコメント。「もっと話して良いのに」という司会に対し、「映画が長いのでコメントは短くしました」と岨手がきっぱりと返答をし、会場は和やかな笑いに包まれた。
上映中は、大きな笑いと、感嘆にも似たため息が何度も漏れ聞こえ、息を呑むように観客たちはスクリーンに釘付けに。上映が終了すると、劇場の中央に座る3人に向けて約4分間にわたる「ブラボー!」の声とスタンディングオベーションが沸き起こった。

Photo:(C)Kazuko wakayama
Photo:(C)Kazuko wakayamaカンヌ映画祭への参加が初となる岸井は笑顔ながらも目に涙をため、そんな岸井を岨手が手繰り寄せて熱い抱擁を交わした。また2階から聞こえる大きな「ブラボー!」の言葉に、浅野はガッツポーツで応えた。
Photo:(C)Kazuko wakayama上映後には、日本メディア向けに囲み取材を実施。まずはワールドプレミアをカンヌで迎えた感想を聞かれると、岸井は「どんなふうに伝わるのかなと緊張していましたが、素直に映画を受け取ってくださっていて嬉しかったですし、とにかくほっとしました」、浅野は「僕の中で三束みつつかという役は未だぐるぐる回っているような、どこに向かっているのか分からない存在だったのですが、先ほど皆さんと一緒に鑑賞してようやくなにかに辿り着けた気がしました。オープニングで自然に涙が流れ、終わった後も涙してしまいました。とても感動しました」、岨手監督は「三大映画祭に参加する人生になるとは思ってもみなかったので、選出の知らせを聞いたときは本当に驚いたのですが、今日ようやく『カンヌに来たんだ』と実感することができました。観客の皆さんと、そして隣にいる俳優部の皆さんと、全員立場関係なく一緒に映画を観ることが新鮮で、はじめは緊張していましたが、最後には皆と同じ目線で見ることができました」とそれぞれの言葉で喜びを語った。
今回が初めてのカンヌ参加となった岸井が、「演劇以外で拍手をいただくことがないので、久しぶりに拍手をいただいてとても嬉しかったです。また劇中、冬子と三束がフランス料理のお店に行くんですが、ふたりとも料理名が読めないというシーンで笑ってくださったのはフランスでの上映ならではで、新鮮でした」とカンヌならではの反応を振り返ると、岨手監督も「私もひとり編集していて『ここはコミカルだな』と思っていたシーンがあったのですが、 日本で関係者だけの試写をやったときにはまったくそんな反応がなかったんです。でも今日そこで笑いが起きて少し安心しました。カンヌの観客はスクリーンとコミュニケーションをとっているということも分かり、とても良い経験になりました」としみじみ。
過去にも数回カンヌへ参加経験がある浅野は「おそらく7~8回は来ています。街もある程度把握できているし、顔見知りの映画人の方々もいるので、ホッとするくらいです」とカンヌへの親しみを語った。
どちらも岨手組への参加は初めてとなる岸井と浅野だが、岨手監督の印象について「撮影に入る前、三束という人物を自分なりに考えて用意していましたが、監督が考える三束のイメージに引っ張っていってもらうことが多々ありました。きちんと話をしてくれて、一緒に創り上げてくれました」と浅野が述べると、「私も同じです。もともと川上未映子先生の原作が大好きで、自分なりの確固たる冬子像があったのですが、映画と小説とでは違いが生じるので悩んでいた時、私の中の冬子と岨手監督の中の冬子、それぞれのイメージを掛け合わせて一緒にキャラクターを創り上げてくださいました。想いが強く、引っ張っていってくれる。芯の強い、闘う女性というイメージを感じました」と岸井も同意。続けて「今日も公式上映に参加する前にとても緊張していたのですが、監督が『私たちはもう映画を完成させて、面白いと思っているものができたから今ここに立っているんだ』と励ましてくれまして。これからもついていきたいです」と嬉しそうに裏話を明かすと、岨手監督は気恥ずかしそうに笑みを見せた。
今後日本映画界を担う一人として活躍が期待される岨手監督に対し、今の日本映画界が抱える課題についての問いが飛ぶと「私は現在金沢に住んでいますが、東京に居続けないと映画が撮れないというイメージは変えていきたいと思っています。地方でも、日本じゃなくても好きなところに住んで多様な経験をして、その経験を生かして豊かな映画を作っていけたら良いですよね。そんな一つのサンプルに、自分がなれていたらいいなと思っています」と語った。
また今年のカンヌの「ある視点」部門は、20本中11本が女性監督作品であることにちなみ、女性監督の活躍について話が及ぶと「やっと男女比の過半数を超えた、という意識はなく、面白い映画が選ばれるのは自然なことだと思っているので、特に意識はしていませんでした。最近は日本でも女性の若手監督が非常に増えてきていますし、呉美保監督のように出産を経て復帰される方もいらっしゃり、子どもがいるいないやライフプランに関わらず、いろんな経験をした人が、それぞれの映画を持ち寄る映画界が私の理想です。私もやっと子供たちが手を離れてきたので、もっといっぱい撮っていきたいなと思っています」と意気込みを語った。
原作者の川上未映子は現在ブックツアーでオーストラリアに滞在中のため、残念ながらカンヌに参加することが叶わなかったが、岨手監督は「今朝も先生から『頑張って。楽しんでね』と応援のメッセージをいただきました」とにっこりと報告。
監督、キャスト、原作者まで、深い絆を育んだチームであることアピールした。
本作が出品されている、「ある視点」部門の授賞式は現地時間5月22日(金)(時間未定)に行われる予定。
Photo:(C)Kazuko wakayama
原作は、2008年「乳と卵」で芥川賞、2019年「夏物語」で毎日出版文化賞を受賞した川上未映子による初の恋愛小説「すべて真夜中の恋人たち」(講談社文庫)。2011年の発行以来、国内累計40万部を突破して国内で話題となった後、全米批評家協会賞小説部門に日本人初ノミネート、米「TIME」誌の〈2022年の必読書100冊〉にも選出されるなど、海外でも人気を博している。人との関わりを拒み孤独に生きてきたフリーの校閲者・入江冬子ふゆこが主人公。
ひょんなことから年上の物理教師・三束みつつかと出会い、交流を深めていく中で、自らの孤独や感情と向き合っていく恋愛物語となっている。川上にとって初となる長編小説の映像化作品の監督・脚本を担ったのは『あのこは貴族』以来約5年ぶりの長編映画となる岨手由貴子。主人公・冬子役は岸井ゆきの、三束役は浅野忠信が務め、その他には森田望智、深川麻衣、塩野瑛久ら実力派俳優が名を連ねる。さらに松坂桃李が語り役として声のみの出演を果たし、物語に奥行きを与えている。現在開催されている第79回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に正式出品され、海外からも注目を集める話題作。現代人が抱えるリアルな孤独感やそれでも人と向き合うことの幸せや尊さをまっすぐに描いた繊細な人間ドラマを内包しながら、すべての人々を優しい光で包み込む究極の恋愛映画が誕生した。
Ⓒ2026『すべて真夜中の恋人たち』製作委員会岸井ゆきの 浅野忠信
森田望智 深川麻衣 塩野瑛久
中村優子 長井短 祷キララ 中井友望 林裕太
語り:松坂桃李
監督・脚本:岨手由貴子 原作:川上未映子「すべて真夜中の恋人たち」(講談社文庫)
製作:『すべて真夜中の恋人たち』製作委員会
製作幹事・配給:ビターズ・エンド 制作プロダクション:C&Iエンタテインメント
©2026『すべて真夜中の恋人たち』製作委員会





