本作は太平洋戦争、すでに⽇本の戦局が悪化していた昭和19年9⽉15⽇から始まった「ペリリュー島の戦い」と、終戦を知らず2年間潜伏し最後まで⽣き残った34⼈の兵⼠たちを描いたアニメ作品。原作は⽩泉社ヤングアニマル誌で連載され、かわいらしいタッチでありながら戦争が⽇常であるという狂気を圧倒的なリアリティで描き、第46回⽇本漫画家協会賞優秀賞を受賞した武⽥⼀義による同名漫画(全11巻/外伝全4巻)。各界クリエイターから絶賛コメントが寄せられた戦争漫画の新たなる⾦字塔が、劇場アニメとしてついに映画化された。
声優を務めたのは、⼼優しい漫画家志望の主⼈公・⽥丸均に板垣李光⼈、頼れる相棒・吉敷佳助に中村倫也。確かな演技⼒で話題作への出演が続く2人が、過酷な戦場を⽣き抜こうとする若き兵⼠を熱く演じる。南国の美しい島で相次ぐ戦闘、飢えや渇き、伝染病―家族を想い、故郷を想いながら、若き兵⼠が次々と命を落としてゆく。⾃決も許されない持久戦、1万⼈中最後まで⽣き残ったのは僅か34⼈だった地獄のような戦場、ペリリュー島で若者たちは何を想い、⽣きたのか。観る者の感情を揺さぶる、壮絶な世界で紡がれた戦⽕の友情物語が描かれる。監督は「魔都精兵のスレイブ」の久慈悟郎。共同脚本は西村ジュンジ(西村純二)。アニメ制作は「ドラえもん」のシンエイ動画と「ドッグシグナル」の冨嶽が共同で担った。
今年の5⽉29⽇に本作の舞台であるペリリュー島が所在するパラオからスランゲル・S・ウィップス・ジュニア⼤統領が来⽇。漫画の原作者であり、映画の脚本も⼿掛けた武田一義との対談が実現し、戦前から続く⽇本とパラオの深い関係、そして未来に向けた話を、作品を通じて話し合った。
武田一義 こんにちは。漫画家の武田一義です。
スランゲル・S・ウィップス・ジュニア パラオ大統領 こんにちは。まず⽇本とパラオが共有し、両国をつなぐ漫画を描いて下さり感謝します。
武田 ペリリューの戦いについては元々知っていたわけではないのですが、10年前の4⽉に、戦後70年のタイミングで⽇本の天皇・皇后の両陛下がパラオを慰霊訪問された報道を⽇本で⾒ていて、初めてペリリュー島の戦いのことを知るに⾄り、興味を持ったというのがきっかけです。漫画を描いたきっかけも、平塚柾緒さんという、元兵⼠たちの取材を続けてきたジャーナリストと話す機会があり、実際にペリリュー島で戦った兵⼠が当時どんな様⼦だったか、どんな話をしていたかなどを聞けたんです。そこに⾃分たちと何ら変わらない“普通”の若者の姿を⾒ました。そう感じた時、⽇本兵や軍⼈さんなど、当時戦争していた⼈たちのお堅く異質な存在が、⾃分と変わらない“普通”のイメージに変わっていました。それが第⼆のきっかけとなり、『ペリリュー』を描きたいと思ったんです。
大統領 すでに戦後80年が経ちましたが、ご存知のようにペリリューはパラオの⼀部です。そして当時のパラオは⽇本の一部でした。そこで映画化される意味は両国が共有する歴史に光を当てることです。彼らが実際にどんな体験をしてきたのか。最近ペリリューの歴史を知りたいという⽅々と過ごす機会がありました。彼らはペリリューの戦いが最も過酷であったと⾔います。両陣営の兵⼠が必死に各々の国を守ろうと戦っただけで、彼らも今の若者と同じ、“普通”の若者だったと思います。⼈を⼤切に思っていたからこそ、その⼈間性を描くことが⼤切でした。私たちも両国の似ているところ、共有できる歴史を知る必要があり、忘れられてほしくないのです。
武田 ペリリュー島が⼩さな島だということは知っていましたが、現地に赴いて、その⼩さな世界で多くの兵⼠が戦った痕跡が今も残っており、今も⼈がそこで⽣活しているのを⾒ました。少し離れると戦争の痕跡がたくさん残っていることに驚かされます。まだ未処理の不発弾や機雷があり、回収されない遺⾻や、そうした影響を⽬の当たりにして、私が知らなかった戦争の歴史、つまり実際のペリリュー島を知ることができた気がします。それでも戦争の傷跡が島から消えていないことに⼼を痛めます。
大統領 あなたが言う傷跡はよく分かります。戦いの証拠や痕跡を日々目にするからです。戦争中、島には⽊が全く残っていなかった。現在島に⾏けばそこら中が森に覆われています。つまり誰もが癒され、立ち直ることができるのです。その時間を思い出させるものでありながら、癒され、立ち直れるのです。彼ら(兵⼠)がパラオを再訪できるようになってこそ、⽴ち直り、平和を⽬指すことができる実感があります。和解、平和への願いこそ、求めるべきものです。このような戦いが二度と起きないように。
武田 個⼈的な興味ですが、⼤統領は戦争が終わって生まれた世代だと思いますが、ご両親や、お祖⽗さん、お祖⺟さん、当時の日米の戦争に巻き込まれたパラオでどんな戦争体験をされたのですか。
大統領 それを言うと、とてもユニークな⽴場ですね。母はアメリカ出⾝で、祖⽗、つまり私の⺟の⽗ですが、戦時中はバージニア州で⾶⾏機を作る仕事に従事しました。⽗はパラオの出身です。そんな⽗の⽗親は、彼が1歳の時に亡くなっています。戦争の前ですが祖⽗が必死に⽣きようとしていた話を⽗から聞かされました。北部のバベルダオブ島の森で、爆撃や戦闘機を避けながら隠れ、夜は⾷物を⼿に⼊れるために出て、必死に⽣き残ったそうです。
でも忘れがちですが、ペリリューが戦場となった時、すでにパラオ⼈はいなかったのです。日本の兵⼠はそこが戦場となると分かっていたため、パラオ⼈を守ろうとパラオ北部へ移しました。戦いに備えながら市民を守られなければと。
戦後70年にあたる年、アメリカがペリリューへの上陸を開始した9⽉15⽇と同じ⽇にペリリューでの式典に⽴会いました。その時私は戦後初めてアメリカ軍兵⼠、日本兵が初めて顔を合わせるのを⾒ました。和解し、それぞれが赦そうとする姿勢を。互いに憎み合っていたわけでなく、ただ⾃国を守ろうと戦っていたわけで、自国を愛するが故です。だからこそみんなが平和に暮らすことの⼤切さを感じなければなりません。特に緊張感が⾼まるアジアの混沌とした現在でも。私たちの島々では変わらないかもしれません。アメリカが⾶⾏場、港を整備し、レーダー施設を建設する。私たちは地理的にそんな渦中にあるのです。ただ私は国⺠に改めて認識してほしいと伝えるようにしています。観光も⼤切ですし、平和を守るベく意思を強く持ち、みんなで働きかける必要があります。
だから⽇本とパラオを再びつないでくれる武田さんの作品は⼤切です。たくさんの⽅にパラオを訪れてほしい。パラオには日本の祖先がたくさんいて、人口の 20%が日系です。妻の曽祖父も日本人でした。“トクベツ”など1000以上のパラオ語は⽇本語が起源です。キッコーマンのしょう油も⽇本を除けば世界有数の消費量です。⽣活の中で教える多くの事はかつて⽇本⼈が教えてくれました。最初の学校建設も、野球を教えてくれたのも⽇本⼈です。パラオで野球が始まって100年です。歴史を共有し、繋がりを強めながら平和への働きかけなど様々なプログラムがあります。同じ人間として、みんなに⼼があり、互いに共有しているのです。
武田 漫画の時もそうですが、戦争を詳しく知っている⼈より、全く知らない若者や⼦供に知ってほしいと思うんです。アニメも、アニメでなければ⾒ていないという⼈に届ける⼒は強い。戦争に触れたことがない若者や⼦供に、まずこういうことがあったと知ってほしいんです。僕の漫画の主⼈公はデフォルメされていますが、そこで描かれていることはリアリティがあると思うのでそれを知ってもらいたいですね。
大統領 若者が理解できることは⼤切ですし、理解しやすいという意味で漫画というメディアは素晴らしいと思います。歴史から学び、過去に起きたことを繰り返さないようにするために歴史は重要です。ペリリューの歴史も、漫画というメディアを使いながら、パラオと日本の⼈たちの繋がりを見出し、できればたくさんの日本⼈がパラオを訪れ、歴史を学んでくれると嬉しいです。ダイビングの楽園としか知らない⼈もいますが、どれだけ近い存在か知ってもらえると嬉しいです。
武田 本当にそうです。
大統領 パラオで“マンガ”は“コメディ”を意味しますが、映画、またはストーリーテリングで⼤切なのは、⼈と⼈がつながれるように理解し、実際につながることです。私たちが望むのはみんなが平和に暮らせる世界です。島にいた若者たちもみんなそうしようとしていたのだと思います。⾃分の国を愛し、⾃分なりの方法で守ろうとしていたのだと。だからこそこうした物語が共有され、伝えられることが⼤切です。いつかペリリュー島に平和記念館が作れたらいいと思います。⼤切な物語を伝え続けられるように。なので武⽥さん、そんな物語が消えてしまう前に残そうとしてくれてありがとう。おかげでこうして共有できました。タイミングは本当に⼤切です。ペリリュー島を通して、彼らにもう一度⽣命を与えて下さり「ドウモアリガトウ!」。
作品情報
キャスト:板垣李光人 / 中村倫也
天野宏郷 藤井雄太 茂木たかまさ 三上瑛士
原作:武田一義「ペリリュー ―楽園のゲルニカ―」(白泉社・ヤングアニマルコミックス)
監督:久慈悟郎 脚本:西村ジュンジ・武田一義
キャラクターデザイン・総作画監督:中森良治 プロップデザイン:岩畑剛一 鈴木典孝 メカニックデザイン:神菊薫
美術設定:中島美佳 猿谷勝己(スタジオMAO) コンセプトボード:益城貴昌・竹田悠介(Bamboo)
美術監督:岩谷邦子 加藤浩・坂上裕文(ととにゃん)
色彩設計:渡辺亜紀・長谷川一美(スタジオ・トイズ) 撮影監督:五十嵐慎一(スタジオトゥインクル)
3DCG監督:中野哲也(GEMBA) 髙橋慎一郎(STUDIOカチューシャ) 編集:小島俊彦(岡安プロモーション) 考証:鈴木貴昭
音響監督:横田知加子 音響制作:HALF H•P STUDIO
音楽:川井憲次
制作:シンエイ動画 × 冨嶽 配給:東映
公式HP:https://peleliu-movie.jp/
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