1945年、沖縄県伊江島で激しい攻防戦が展開される中、ふたりの日本兵が木の上に身を潜め、終戦を知らずに2年もの間生き延びた──。この実話から着想を得た作家・井上ひさしが原案を遺し、こまつ座で上演された舞台『木の上の軍隊』が映画化。7月25日(金) からの全国公開に先駆け、6月13日より沖縄で先行公開がスタートした。
太平洋戦争末期、戦況が悪化の一途をたどる1945年、飛行場の占領を狙い沖縄・伊江島に米軍が侵攻する。激しい攻防戦の末に島は壊滅的な状況に陥っていた。宮崎から派兵された少尉・山下一雄(堤真一)と沖縄出身の新兵・安慶名セイジュン(山田裕貴)は敵の銃撃に追い詰められ、大きなガジュマルの木の上に身を潜める。厳格な上官の山下とどこかのんきな新兵の安慶名は、ふたりきりでじっと恐怖と飢えに耐え忍んでいた。やがて戦争は日本の敗戦をもって終結するが、そのことを知る術もないふたりの“孤独な戦争”は続いていく。
沖縄の5劇場(シネマQ、ミハマ7プレックス、サザンプレックス、シネマライカム、ローソン・ユナイテッドシネマPARCO CITY浦添)で公開された本作は、初日から多くの観客が劇場に押し寄せ、朝から長蛇の列ができるほどとなった。子どもからお年寄りまで幅広い年齢層が劇場に足を運び、親子、友人、夫婦、家族三世代などでの鑑賞が見受けられ、連日満席となる劇場が続出。『リロ&スティッチ』『国宝』『フロントライン』などのメジャー大作や話題作を押さえ、金土日3日間の週末観客動員が沖縄No.1のヒットを記録した。また各劇場には、ガジュマルの木をあしらった大きなパネルが設置され、鑑賞後には多くの観客が葉っぱの形をした付箋に感想を書いて貼り付ける姿が見られた。





6月13日にシネマQで行われた舞台挨拶には、平一紘監督をはじめ、津波竜斗、玉代㔟圭司、城間やよい、真栄城美鈴といった沖縄出身のキャスト、さらに主題歌を担当したAnlyが登壇。この日参加できなかったダブル主演の堤と山田からも「たくさんの方に観てもらえることを祈っています」という映像メッセージが届けられた。
安慶名の親友・与那嶺を演じた津波は、「この映画は、“生きる”ということをテーマにしていて、昨日まで普通に話していた家族だったり友だちだったり大切な人が一瞬にして命を落としてしまう、そういうシーンを演じたり見たりしているときに、本当にとんでもない時代があったんだなと。生きることが大変なあの時代を、僕のおじいちゃんやおばあちゃんが生き抜いてきてくれたからこそ、今僕はここに存在していて、この映画に携わることができて本当に嬉しいです」と語った。
沖縄本島から徴兵された兵士・長田役の玉代は、「完成した作品を観て、“蟪蛄春秋を識らず”(けいこしゅんじゅうをしらず)という言葉を思い出しました。僕は沖縄で生まれ沖縄で育ってきたのですが、こういった実在の人がいたことは知りませんでした。なので、この作品を観ていただいた方が隣にいる方に伝えていただくことで、回り回って多くの方々に伝わればいいなと思います。また次の世代の人たちに向けて、こういった真実があったんだということや沖縄のことを、より深く知れるようなきっかけになってくれたらいいなと思います」と本作に込めた思いを伝えた。
安慶名の母親・郁子を演じた城間は、「私に与えられた役目としてウチナーンチュでいること、そしてこのような沖縄戦を描いた作品に関わらせていただくというのは、沖縄の唄『艦砲ぬ喰ぇー残さー(かんぽうぬくぇーぬくさー)』(艦砲射撃の食い残し)にもありますように、いまだに地球上から戦争がなくなっていないという中で、少しでもそういった現状にある方や、戦争とは関係なくとも辛い想いをされている方々に笑顔が届くように、という想いを込めて演じさせていただきました」とコメント。
伊江島出身のAnlyは「この映画を観て、お互いの心を知って、平和に一歩一歩近づくような世界になってほしいなと思って、“ニヌファブシ”(=北極星)のように揺るがない想いでこの曲を歌い続けていきたいなと思います」と楽曲に込めた想いを語った。
そして平監督は、「僕は今35歳なのですが、この映画に関わるまで真剣に沖縄戦と向き合ってこなかった。この映画を通して2年間取材をして、色々な方の話をたくさん聞いて、伊江島の真実と向き合って初めて迎えたその年の“慰霊の日”、黙祷したときに涙が止まりませんでした。どうやったらそれを皆さんに届けられるだろうと考えたときに、『木の上の軍隊』という物語は、非常にシンプルな“生きる”というメッセージが込められていて、その中に“面白さ”があるからこそ、この(戦後)80年という節目に大切なことを多くの方に届けられると思いました。なので、この映画に対する想いは、皆さんが面白いと思ってもらったストーリーにこそあります。色々な想いを受け取ってもらい、それを皆さんの大切な人に伝えてほしいなと思います」と語った。
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原作:「木の上の軍隊」
株式会社こまつ座・原案:井上ひさし
作家・井上ひさしが生前やりたい事として記していたオキナワを舞台にした物語。タイトルは「木の上の軍隊」。
井上が遺した1枚のメモを基に、井上ひさし没後、こまつ座&ホリプロ公演として2013年、藤原竜也、山西惇、片平なぎさを迎え初演された。その後、「父と暮せば」「母と暮せば」と並ぶこまつ座「戦後“命”の三部作」位置づけられ、16年、19年にはこまつ座公演として山西惇、松下洸平、普天間かおりが出演し、再演、再々演され、19年には沖縄でも上演。世界からも注目され様々な国から上演依頼がある作品である。2023年6月より韓国公演がスタートし8月の終演までソールドアウトの人気を博した。
出演:堤 真一 山田裕貴
津波竜斗 玉代㔟圭司 尚玄 岸本尚泰 城間やよい 川田広樹(ガレッジセール)/山西 惇
監督・脚本:平 一紘
原作:「木の上の軍隊」(株式会社こまつ座・原案井上ひさし)
主題歌:Anly
企画:横澤匡広
プロデューサー:横澤匡広 小西啓介 井上麻矢 大城賢吾
企画製作プロダクション:エコーズ
企画協力:こまつ座
制作プロダクション:キリシマ一九四五 PROJECT9
後援:沖縄県 特別協力:伊江村
製作幹事・配給:ハピネットファントム・スタジオ
©️2025「木の上の軍隊」製作委員会