『モネと時間旅行』トークイベント
『モネと時間旅行』トーク イベント
日程:9/10(木)
会場: 日本シネアーツ社 試写室
登壇:安井裕雄(三菱一号館美術館 上席学芸員)、中村剛士(青い日記帳)
世界で250万人動員の大ヒット!パリで暮らす家族に遺された、ノルマンディーの草原に佇む古い一軒家。長い間閉ざされた屋敷から発見されたのは、白いドレス姿の女性が描かれた印象派の作品らしき 絵画。 絵に描かれた女性と、作者は、いったい誰なのか?一枚の絵画に隠された家族の秘密が解き明かされたとき、それぞれの人生が輝きはじめる―『ダンサー イン Paris』などで知られるセドリック・クラピッシュ監督による最新作『モネと時間旅行』(9/18公開)。
この度、本作の特別試写会が開催され、三菱一号館美術館 上席学芸員の安井裕雄氏と、美術ブログ「青い日記帳」を運営する中村剛士氏が登壇しました。

映画を鑑賞した安井氏は、まず本作の時代設定に注目。「映画を見る前から気に入ってしまいました」と明かし、その理由として「1895年という時代設定」に触れ、「実にうまいところをついてきたなと思った」と絶賛。さらに「間違いない。すごい面白かったです。私にとっては」と、本作に太鼓判を押す。
一方、本作を今年3月に初めて鑑賞したという中村氏は、当時はまだ邦題が決まっておらず、タイトルに“モネ”という言葉すら入っていなかったと振り返る。「何の映画だろうなと思って見ていたら、いきなりオランジュリー美術館が出てきたりとか、冒頭からびっくりしますよね」と語り、「普段見ている美術系の映画の中でも、かなり面白く見ることができた」とコメント。
これに安井氏も、本作の映像表現について「精度が高いんですよね。それは多分クラピッシュっていう監督の特性だと思うんですけれども、相当な映像マニアだと思っています」と分析。現代パートと過去パートでカメラやレンズを変えている点にも触れ、「細かいところのディテールの積み重ねがすごく上手な監督」と、そのこだわりを高く評価した。
さらにトークは、本作の重要な鍵となる“モネの幻の作品”へ。中村氏が「もしあの作品が現代に見つかったとしたら、おいくら万円ぐらいするんでしょうか」と直球質問を投げかけると、安井氏は「0円か、もしくは50から100億、100億超えると思います」「どっちかに転ぶ」と驚きの金額を提示。

その理由として、作中で描かれる作品が「1870年代の主題を1895年に描いている」点を挙げ、「科学調査すると一発で顔料が違うとか、制作年代と様式(スタイル)が合っていないとか、そういうことが出てきちゃう。すごく認めさせるのが難しい作品」だと解説。「新発見の真作だということがうまく証明できて、クリスティーズやサザビーズのようなオークションハウスにいったら一気に弾けると思います」と、幻のモネ作品に秘められた価値を語った。
続いて、劇中のようにモネの作品が突然発見された場合の“真贋鑑定”についても話題に。安井氏によれば、まず作品が作品(カタログ)総(・)目録(レゾネ)に掲載されているか否かを確認し、その他の文献資料なども調査。さらに科学調査が可能であれば、X線などによる非破壊検査も行うという。
例として、メトロポリタン美術館がベラスケス作品を購入する際、館長がスタッフに芝居をさせて画商を別室へ誘導し、その隙に作品を窓際へ持っていき、光を当てて裏表から確認したという驚きの逸話も披露。「METでも贋作掴まされるっていうのがあります」と、美術作品の真贋を見極めることの難しさを語った。
また、劇中にはモネだけでなく、印象派の歴史を彩った実在の人物が数多く登場することにも注目。安井氏は、写真家のフェリックス・ナダールについて「第1回印象派展にモネに頼まれて会場を貸した人物」と紹介。さらに、当時の美術批評家ルイ・ルロワが、モネの《印象、日の出》をきっかけに“印象派”という呼称につながる批評をしたことにも触れ、 映画に散りばめられた美術史的なディテールを次々と解説した。
中でも安井氏が一番のお気に入りと絶賛したのが、過去パートで、今もパリで営業中のレストラン<ル・トラン・ブルー>が登場する場面。当時のフランスを象徴する大女優「サラ・ベルナールが出てきて『ソレイユ・・・』とラシーヌの舞台の一節を朗々と響かせるところは最高!」「やってくれたなと思いましたね」と熱弁、「彼女、時代の星なんです」と、その存在感を語り、さらに同じ場面にナダールも登場していたことから、自身が<ル・トラン・ブルー>を訪れた際、「昼ご飯食べなかったこと、めちゃくちゃ後悔してます笑」とユーモアたっぷりにコメントし、会場の笑いを誘った。
そして話題は、現在ではモネの代表作として知られる《睡蓮》へ。中村氏がオランジュリー美術館の《睡蓮》は当初あまり評判がよくなかったのでは、と尋ねると、安井氏は「評判良くないところか」と驚きの事実を紹介。過去オランジュリー美術館(開館当初はクロード・モネの名前も冠されていた)の看板よりも、隣で開催されていたドッグショーの看板のほうが大きかったという。
さらに、あまりにも来館者が少なかった時代は、開館時間が大幅に縮小、さらに第二次世界大戦中にはドイツ軍の砲弾が壁を突き抜けて《睡蓮》が破損したこと、モネのアトリエに残された作品もガラス天井が破壊され、10年以上ほぼ野ざらしの状態だったことなど、現在のモネの評価からは想像もつかない歴史を披露。
現在のオランジュリー美術館についても、「今、皆さんがご覧になっている状況っていうのは、実は長い間ああいうことはなくて」と語り、現在の展示空間に至るまでの知られざる変遷を解説した。
さらに、モネの代表作《印象、日の出》についても興味深い話が飛び出した。安井氏は、同作が1872年11月の13日の「朝7時25分から35分の間」にモネがノルマンディーのホテルの一室から見た光景が描かれたことが近年証明されていると紹介。劇中の設定と照らし合わせながら、「美術史の人たちとしては、いろんなことが繋がってくる」と、専門家ならではの楽しみ方を披露した。
そして、 映画を観た後、あらためてモネの作品を美術館で見る際のポイントを問われた安井氏は、「『モネと時間旅行』は、1895年に焦点が当たってますからね。その前後に、モネが生きてたんだなっていうこと」「同時期に映画もあったんだな、あるいは写真はもうすでに公表されてから60数年経ってたんだっていうことを念頭に置いていただくと、さらに面白いと思います」とアドバイス。
さらに、「今回の今日の映画をもう一度ご覧になられる機会があったら、その視点から見ると面白い」「モネだけで語ってはいけないですね」と語り、本作が単なる“モネ映画”にとどまらないことを強調。
最後に「モネってすごく古くて新しい画家だと思います」と語る安井氏。 今年10月にモネ没後100年を記念してパリのオランジュリー美術館で展覧会やシンポジウムが開催されることにも言及、「まさにモネとともに時間旅行していただくこの映画っていうのは、ものすごいいい切り口になるかなというふうに思ってます」と締めくくった。
モネが生きた時代へと観客を誘い、 絵画だけでなく、写真、映画、文化、そしてそこに生きた人々までを映し出す『モネと時間旅行』。美術史を知れば知るほど新たな発見が浮かび上がる本作を、ぜひ劇場で体験していただきたい。
『モネと時間旅行』(原題:La Venue de l’avenir)
監督・脚本:セドリック・クラピッシュ
出演:スザンヌ・ランドン、アブラム・ヴァプレ、ヴァンサン・マケーニュ、ジュリア・ピアトン、ジヌディーヌ・スアレム、ポール・キルシェ、サラ・ジロドー、セシル・ドゥ・フランス、オリヴィエ・グルメ、ヴァシリ・シュナイダー、ヴァランタン・カンパーニュ
2025年/126分/フランス/フランス語/2.35:1/5.1ch/日本語字幕:古田由紀子/英題:Colours of Time
日本公開2026年9月18日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下 ほかロードショー
配給:セテラ・インターナショナル
協力:ユニフランス
© STUDIOCANAL – COLOURS OF TIME – CE QUI ME MEUT – Emmanuelle Jacobson-Roques
監督・脚本:セドリック・クラピッシュ 『ダンサー イン Paris』
出演:スザンヌ・ランドン『スザンヌ、16 歳』、アブラム・ヴァプレ、ヴァンサン・マケーニュ『画家ボナール ピエールとマルト』、ジュリア・ピアトン『最高の花婿』、ジヌディーヌ・スアレム『パリのどこかで、あなたと』、ポール・キルシェ『Winter boy』、ヴァシリ・シュネデール『モンテ・クリスト伯』、サラ・ジロドー『ベルナデット 最強のファーストレディ』、セシル・ドゥ・フランス『幻滅』、オリヴィエ・グルメ『私は確信する』、ヴァランタン・カンパーニュ“Coward”
原題:La Venue de l’avenir/2025年/126分/フランス/フランス語/日本語字幕:古田由紀子/1:2.39/5.1ch/配給:セテラ・インターナショナル





