『ハムネット』奈良橋陽子(『ラストサムライ』キャスティングディレクター)イベント登壇
『ノマドランド』のクロエ・ジャオ監督の最新作で第98回アカデミー賞®最優秀主演女優賞(ジェシー・バックリー)に輝いた『ハムネット』の試写会が3月25日(水)に都内劇場で行われた。上映後のトークイベントには、今年のアカデミー賞®からキャスティングディレクターを対象にした“キャスティング賞”が新設され、本作がノミネートされたことにちなんで、『ラストサムライ』などの作品に携わってきた、ハリウッドで活躍する日本人キャスティングディレクターの奈良橋陽子が登壇。キャスティングディレクターの役割から、自身がこれまでに経験した驚きのエピソードまでたっぷりと語ってくれた。
前日にロサンゼルスから到着したばかりという奈良橋。こうして舞台挨拶やトークショーに出席する機会は多くないとのことで、生の声を聴くことのできる貴重な機会となった。
本作のクロエ・ジャオ監督とは以前、東京国際映画祭で顔を合わせたことがあるとのことで「彼女の師匠はスパイク・リーなのですが、彼女に『リアリティを追求しなさい』と教えたんですね。あまりセンチメンタルな方向に行かないように、ドキュメンタリーを撮っているかのように、リアリティを追求していくのが素敵なところだと思います。ニューヨークのティッシュ・スクール・オブ・アーツで学んでいて、そこでストーリーをどうやって語るかを勉強したんだと思います。(スパイク・リーの教えで)ドキュメンタリータッチでリアルを追求していくと同時に、そのことが良い組み合わせだった気がします」とマギー・オファーレルによる小説を原作とした本作において、ストーリーテリングとリアリティを追求する部分がバランスよく組み合わさり、素晴らしい仕上がりになったと称賛する。
ちなみに、 映画業界において、キャスティングディレクター同士の横のつながりも強いようで、奈良橋は本年度のアカデミー賞®から創設された<キャスティング賞>にノミネート! 本作キャスティングディレクターのニナ・ゴールドとも交流があるという。「彼女とは数回、お会いしたことがありますが、すごく素敵な方で、彼女の感性が大好きで、以前から彼女が関わった作品を見ていました。尊敬しています」とその手腕を称える。
実際、ニナ・ゴールドのキャスティングによる本作の主演の2人の演技を奈良橋は絶賛。アカデミー賞®主演女優賞に輝いたジェシー・バックリーについて「ノミネーションを見て、(受賞するのは)彼女しかいないと思いました。圧倒的でした。クロエ監督は、リアリティを追究していくし、プラスして内面の感情を求める。表面的な外枠だけのセンチメンタルじゃなく、本当に真実があって、内面から感情が出てくる――それは難しいことだけど、クロエはそれを要求するし、彼女はそれが出せる人です」と手放しで褒めたたえた。
シェイクスピア役のポール・メスカルに関しても「すごく素敵でした。シェイクスピアをひたすら読んだと言っていましたが、今後、もっともっと売れると思います!」と太鼓判を押す。
奈良橋は、キャスティングディレクターという仕事を「監督が(出演候補の俳優を)全部見るのは無理なので、こちらで探して『いいな』と思った人を紹介する仕事」と説明。「昔はビデオを撮って送ったりして大変でしたけど、いまはZOOMを使ったりして、楽になりました」と語る。
スピルバーグ監督の『太陽の帝国』、トム・クルーズ主演で渡辺 謙らのハリウッド進出のきっかけとなった『ラストサムライ』など、数々のハリウッド作品の日本人俳優のキャスティングに携わってきた奈良橋の口からは、次々と驚きのエピソードが……。
『ラストサムライ』に関しては、勝元役として真っ先に渡辺 謙を監督に紹介したものの、当初は監督の反応はあまり芳しくなかったそうで「素通りしちゃった(苦笑)」とのこと。その後、何人かの候補を紹介したものの、なかなか決まらず「監督が『勝元がいないじゃないか!』とイライラし始めたので『最初に紹介した方は?』ともう一度、謙さんをプッシュしたら『会ってみるよ』と言ってくださって、部屋に(渡辺さんが)入った瞬間に監督は何かを感じて、途中で私にガッツポーズを見せてくれました。あのときは、さんざん……」と苦笑交じりに“世界の渡辺 謙”の誕生の瞬間を明かしてくれた。
改めて、キャスティングディレクターとして、どういうところを重視して俳優を選ぶのか?を問われると、奈良橋は「よく言うのは『シンデレラを探す』ということ。靴がぴったり合う人を選ぶんだけど、感覚なので『何でそうなるの?』というのは分かんない(笑)。『この 映画はこういう俳優が必要』という感覚ですし、監督のイメージなどもあります。道を歩いていて(すれ違った人に光るものを感じて)『え!?』となる時もありますよ。スカウトしたいと思うんだけど、その人の人生をダメにすることになるかもしれないから、できないです(苦笑)」と語った。
また、才能あふれる俳優が日本にも数多くいると語る奈良橋。「SHOGUN 将軍」でエミー賞主演女優賞に輝いたアンナ・サワイに言及し「彼女が15歳の時、『ニンジャ・アサシン』にキャスティングしたんですけど、すごく良かったし、感性が素晴らしかった。でも、日本ではなかなか上手くいかなかったんですね。(日米の)文化の違いもあると思います。日本ではあまり知られてないかもしれませんが、アメリカではいま、一番人気のある(日本人の)女優さんです」と日米の違いにも触れつつ「日本で、もっともっと紹介したい方はたくさんいらっしゃいます」と語った。
最後にこの日、劇場に足を運んだ観客に向け奈良橋は「皆さん、もし自分の夢を持っていらしたら、ぜひ追究してください。『自分なんてダメだわ』と思わず、本当にやりたいなら自分を信じて追及してください。そのほうが素敵な人生を送れると思います」と呼びかけ、温かい拍手の中、トークイベントは幕を閉じた。
映画『ハムネット』ポスター(C)2025 FOCUS FEATURES LLC.





