日時:3月19日(木)
場所:明治学院大学 白金キャンパス 3号館3201教室
登壇:荻野みかん、中川駿(監督)

人生の岐路に立つ高校生の息子と難病を抱えるシングル・マザー、複雑な想いを抱える親子の絆と揺るぎない愛を綴った感涙物語映画『90メートル』(3月27日公開)。3月19日に明治学院大学にて、美咲(菅野美穂)の介護にあたるヘルパー・前原裕美子役の荻野みかんと中川 駿監督が登壇し、ティーチイン上映会を実施した。

会場に集まったのは、明治学院大学、国際医療福祉大学、北里大学に通い実際に福祉を学ぶ学生やOB、また、港区子ども家庭支援センターからの招待で福祉やケアというテーマに関心が高い方々140名ほど。

荻野は、俳優業の傍らで16年のキャリアを持つヘルパーとして現在も現場に立っている。まず荻野は、「紹介にあったように、私は、俳優業に加えて、介護という仕事をこれまで強い想いを持ってやってきました。それが、表現に繋がり、こうして素敵な作品に出演できて嬉しく思います」、続いて、中川監督は、LGBTQを描いた過去作『カランコエの花』が明治学院大学の授業の題材として使われていることを明かし「そういった縁がある場に来ることができ嬉しいです! よろしくお願いいたします。来年の授業にも使っていただければ!」とアピールしながら挨拶した。

荻野は、施設での介護のほか、排泄や食事、口腔ケア、歩行の介助から、高齢者だけでなく身体障害者の方の訪問介護も行っている。本作の撮影現場では「介護監修の方もいらっしゃるので、私が独断で提案することはないのですが、例えば増員のヘルパーがきて引継ぎをするシーンの会話などは、実際の経験を活かせました。そもそも現場で介護のお話ができることは滅多にないのでそれだけでも嬉しかったです」と振り返った。

中川監督も「脚本には具体的なセリフはなく、その場でどういう会話をするか話し合いましたね。リアルな会話を引き出せたと思います」と撮影の裏側を明かした。

母親を看病した経験を持つ中川監督が、自身と自身の母を重ね合わせてキャラクターを作り上げた半自伝的

となる本作。自身の経験を本作に昇華するにあたって中川監督は「実は、僕と母の関係はあまり良いものではなかったんです。母をリスペクトしていたし、母もたくさん愛情を注いでくれましたが、母親ってどうしても子どもを心配してしまう。息子心として心配され過ぎて反発に繋がってしまうところがありました。素直に気持ちに言えないまま母を亡くしてしまった後悔や罪悪感があったので、その時に素直に伝えられなかった想いを佑に託すような気持ちで制作しました」と主人公・佑に込めた想いを吐露した。

トークは、観客からの質疑応答に移ると、まず、山時聡真演じる息子・佑と菅野美穂演じる母・美咲の距離感の変化が描かれる重要なシーンについての質問が。スクリーンが暗転していき、病気の進行により上手く話すことができない母・美咲がすらすらと話すようになる演出があり「とても印象的なシーンだと思いました。この演出について詳しく聞きたいです」というリクエスト。中川監督は、「この作品は、介護者と要介護者という関係になってしまった親子が、福祉の助けを借りて“普通の母と息子の関係”に戻っていく物語です。佑のイメージの中で美咲が普通に話しているという演出なのですが、この関係性の変化を象徴的に描くシーンとして入れました」と解説した。

続いて、「この作品について、<親離れ・子離れ>について描いているという説明を以前読みました。とても共感しましたが、どうしてこのテーマにしたのですか?」という問いについて、中川監督は「ヤングケアラーをテーマにした作品ですが、とても大事なメッセージを描いている作品なので、多くの方に観ていただくためにどうすればいいのか、ということを考えました。そこで、ヤングケアラーという社会問題を前面に出すのではなく、誰もが共感しやすい“親離れ子離れ”を描くことにしました」と経緯を語った。

その質問に関連して、「エンターテインメント性と社会性のバランスをどう考えるのか」という問いには、「やはり、多くの方に観てもらうためにはエンターテインメント性は大切だと思います。なので、まず、親子愛に軸足を置くことと、ヤングケアラーや介護といったテーマを描く時、失っていく過程が描かれる作品が多いと思いますが、本作では、介護から解き放たれた青年が普通の生活を取り戻していく過程を見せ逆説的に描くことでエンターテインメント性を担保したことが大きかったと思います」と語った。

続いて、「本作を見てヤングケアラーの存在に気づくことの難しさと、本人も認識することの難しさがあると気づいた」という感想を寄せられると、荻野は「私は、実際に自分が担当した方でヤングケアラーの方に出会ったことはないですが、介護を必要とする方のご家族をはじめ、そういった環境にいる方々は、本人たちが自分の大変さに気づいていない、苦労を苦労と認識していないと感じます。そこが大きいと思います」とコメント。そ

れに対して、「実際に介護を必要とする方やその家族と接する時や、もしかすると助けが必要かもしれない、という方に出会った時、どのように対応しますか? 僕も聞かれますが、どう答えたらいいのか難しくて」と中川監督からも荻野に問いかけが。荻野は、「介護をしていても、その人の本当の心の奥底にある悲しみに届くことは、とても難しいと常々感じます。そんな中でも、私は、寄り添うことが大切だと思います。そうすると、心の温度が少し温かくなるような気がしています。寄り添って支えている。それが、その人の力にもなっていくと思っています」と語り、そして、「『90メートル』ではそれが描かれているところがとてもいい思います」とヘルパーとしての経験も踏まえて、出演作でありながらも太鼓判を押した。

最後の質問で、「劇中だと24時間の介護体制が実現しましたが、現実にはお金の問題や人手不足、さまざまな問題で難しい面もあると思います。おふたりは今後どういった制度があるといい社会になると思いましたか」という問いが。中川監督は、「調べていく中で、実は、制度は揃っているけれどもあまり認知されていないことが問題だと思いました。また、おっしゃってくれたように人材不足というのもあると思います。介護というお仕事の実態が、外からあまり見れず分からないという部分もあると思う。知ってもらいたいという気持ちもあり本作を作りました。また、ケアマネジャーやヘルパーが素敵なお仕事だということを、作品を通じて伝えたいという想いもあります。世間の興味関心が集まって、人材が集まって解決に繋がればいいなと思います」と願いを述べた。荻野は、「人手不足は本当に深刻な問題だと思います。同じ介護職の仲間にもこの作品をすすめています。それは、『自分の仕事が、こんなに力を与えられている・誇れる仕事だ』と思えるきっかけが増えればいいなと思うからです」と本作がそのきっかけとなることをアピールした。

最後に荻野が、「福祉の道を目指す方々も聞いてくださっているということで、ぜひそのキラキラした気持ちを大切に持ち続けてください」とエールを送り、イベントを締めくくった。

90メートル 90メートル 90メートル 90メートル 90メートル

『90メートル』山時聡真  菅野美穂
南琴奈  田中偉登 / 西野七瀬
荻野みかん 朝井大智 藤本沙紀 オラキオ 金澤美穂 市原茉莉 少路勇介
監督・脚本 : 中川駿
プロデューサー:辻本珠子 藤本款 宇田川寧 田口雄介  共同プロデューサー:岡ひとみ アソシエイトプロデューサー:越當陽子
ラインプロデューサー:三橋祐也 音楽プロデューサー:杉田寿宏 音楽:Moshimoss
撮影監督:趙聖來 照明:藤井聡史 美術:松本良二 装飾:八木圭 録音:鈴木健太郎 編集:相良直一郎 音響効果:浦川みさき
衣裳:阿部公美 ヘアメイク:藤原玲子 キャスティング:東平七奈 助監督:安達耕平 制作担当:矢口篤史
製作:映画「90メートル」製作委員会
製作プロダクション : ダブ
配給:クロックワークス
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(日本映画製作支援事業)|独立行政法人日本芸術文化振興会
©2026映画『90メートル』製作委員会
公式HP:https://movie90m.com
公式X:@movie90m
3月27日(金)より全国公開