『Mirai 運命の戦士』あらすじ

原題でもある「Mirai」がインドの言葉で何を表すのかと思ったら、カールティク・ガッタマネーニ監督のインタビューによれば実際に「未来」という日本語が由来となっているそうだ。ガッタマネーニ監督は複数候補の中からその響きを気に入り選んだそうで、タイトルロゴも日本風フォントを意識してデザインされたという。ただし、劇中でミライが指すのは未来そのものではなく、迫り来る悪から世界を救うために受け継がれてきた伝説の武器の名だ。そしてその武器が必要となるほどの争いの発端は、2000年以上前の古代インドにまで遡る。

すべての始まりは、紀元前3世紀にマウリヤ朝を治めたアショーカ王だった。悲惨なカリンガ戦争を制した彼は、内に秘めた強大な力を「9つの聖典」に封印し、9人の戦士に守らせることにした。9つの聖典は世界各地に散らばり、その守護者たちは世代を超えて使命を受け継ぎながら、2000年以上にわたって聖典を守り続けてきた。

そして現代、その長きにわたる均衡を崩そうとする者が現れた。“ブラック・ソード”ことマハービール・ラーマーだ。強力な呪術と剣術を操る彼は、9つの聖典すべてを手に入れて神にも等しい力を得ようと、世界各地の守護者たちを次々と襲っていく。世界に危機が迫る中、救世主の運命を託されたのは、裏社会で生きる孤独な青年ヴェーダだった。彼の出自を知る謎の女性ヴィバに導かれ、自らに課せられた使命を知ったヴェーダは、ブラック・ソードの野望を阻止するため、伝説の武器「ミライ」を手にするべく壮大な旅へと踏み出していく——。

…と、何やらカタカナの圧が強いあらすじだが、物語の流れそのものは明快だ。巨悪を倒すため、選ばれた青年が仲間とともに冒険へ繰り出す——『Mirai 運命の戦士』は、そんなド王道ファンタジー・アクション大作である。ただし、その世界観を形づくっているのは、インドの歴史や神話、伝承の数々。馴染みのない固有名詞が次々と飛び出してくるため、馴染みのない観客には情報量が多いと感じられるに違いない。なので、まずは物語の土台となった元ネタに触れていこう。

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元ネタとなるアショーカ王とラーマーヤナ

物語の出発点であるアショーカ王は、インド最初の統一王朝であるマウリヤ朝を治めた実在の王で、名君のひとりとして歴史に名を刻まれている。後世の仏教説話では残虐な王として描かれているが、彼が変わる転機となったのが、劇中にも登場するカリンガ戦争。アショーカ自身が残した「第13磨崖大法勅」には、カリンガ征服によって多くの人々が命を落としたと記されており、その結果を深く後悔した彼は、以後、武力による征服よりも法による統治を重視するようになったという。

ここまでは史実だが、一方で「9つの書」に関しては、近代に広まった真偽不明の伝説が基になっている。伝説によれば、カリンガ戦争を経験したアショーカ王は、人間が高度な知識を戦争や支配に悪用することを恐れ、9人の賢者からなる秘密結社を組織。それぞれに1冊ずつ書物を託し、知識を人知れず守らせたという。この「9人の無名の賢者」を現在知られる形で広めたのは、1923年にイギリスの作家タルボット・マンディが発表した冒険小説「The Nine Unknown」だ。ガッタマネーニ監督は、この秘密結社伝説に魔の手が迫ることを想像し、さらにインドの叙事詩「ラーマーヤナ」との融合を思いつく。

「ラーマーヤナ」は「マハーバーラタ」と並ぶインド二大叙事詩のひとつ。ヴィシュヌ神の化身とされる王子ラーマが、誘拐された妻シーターを救うためにランカーの王ラーヴァナに立ち向かう物語だ。本作はそこに登場する人物やモチーフを取り込みながら、アショーカ王をめぐる伝説と結びつけた。たとえば劇中に登場するサンパーティは「ラーマーヤナ」ではラーマの旅を助ける巨大な鳥だが、本作ではミライを守る神鳥として再解釈されている。さらにブラック・ソードも映画オリジナルの人物ながら、そのイメージには「ラーマーヤナ」の悪役ラーヴァナが重ねられており、演じたマンチュ・マノージも、自身の役を「現代版ラーヴァナ」として捉えていたと明かしている。

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古代インドの神話 meets スーパーヒーロー映画 !

こうして元ネタをたどると、『Mirai 運命の戦士』が目指しているものも見えやすくなる。本作は古典を忠実に再現した荘厳な神話映画ではない。むしろ、古くから語り継がれてきた物語を、現代の観客が楽しめるアクション・アドベンチャーへと翻訳することに力を注いでいる。テージャ・サッジャーも「若い世代にインドの叙事詩や歴史をクールな形で届けたい」と語り、教育映画ではなく、まずはダイナミックなアクションとエモーションを備えた商業娯楽映画であることを強調している。

その姿勢は、驚くほどシンプルな作劇にも表れている。アショーカ王、聖典、呪術、神鳥、聖仙とモチーフは目まぐるしく盛られている反面、物語の骨格は実に模範的だ。ヴェーダが自身の使命を知る第一部、旅と試練を経て力を得る第二部、そして己の役割を受け入れ、宿敵との決戦へ向かう第三部からなる三幕構成で、先の展開は予測しやすいが、複雑な神話設定を抱えながらも観客が現在地を見失わないよう、徹底して王道スペクタクル映画の型に落とし込んでいるとも言える。古代インドの神話 meets スーパーヒーロー映画とでも表現しようか。ヴェーダが冒険の中で力を身につけていく一方、強大な力を秘めた書を次々と集めるブラック・ソードの姿は、「アベンジャーズ」でインフィニティ・ストーンを集めるサノスさながらである。

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とはいえ、神話と現代のヒーロー物語は決して遠い存在ではないようにも思える。「ラーマーヤナ」のハヌマーンと「西遊記」の孫悟空には古くから類似が指摘され、「西遊記」はさらに「ドラゴンボール」の大きな着想源となった。古典の英雄譚が時代や地域を越えて姿を変えながら、漫画や映画のヒーロー像へ受け継がれてきたことを思えば、『Mirai 運命の戦士』がインド神話をスーパーヒーロー映画の文法で語り直すことも、それほど突飛な試みではないだろう。

そして『Mirai 運命の戦士』が何よりも力を注ぐのは、神話を”クールなアクション”として観客の記憶に刻むことだ。ヴェーダのキャラクター紹介を兼ねたユーモア満点の乱闘から、呪術や見えない剣、音響兵器が飛び交う容赦のない戦闘、雪山での神鳥との攻防、疾走する列車上での大立ち回りまで、次々と趣向を変えながら見せ場を繰り出していく。その迫力を支えているのが、俳優たちの身体性である。テージャ・サッジャーはトレーニングを積み、テルグ語圏古来の棒術「カッラ・サーム」にも挑戦。スローモーションに頼りすぎず、素早い身体の動きを前面に出したアクションに、撮影監督も兼ねたガッタマネーニ監督が実景とVFXを重ね合わせることで、神話的な超常世界にも生身の手触りを与えている。神話の由来を知らなくても、巨大な鳥が襲ってくる、列車が爆走する、超人的ヒーローとヴィランが激突する――画面を見れば何に興奮すればいいのかは一目瞭然であろう。

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奇天烈な日本文化も見どころ

加えて、奇天烈な日本文化も見どころの一つとして触れておきたい。『Mirai 運命の戦士』というタイトルにとどまらず、日本は「9つの書」のうち第7巻が眠る場所として登場。序盤では、それを狙って日本を訪れたブラック・ソードが、道場のようないかにも“ジャパン”のイメージに彩られた空間で大暴れする。書を守るのは忍者たちで、彼らをまとめるのは「ヤクザ・マスター」。そこに流れる音楽はなぜか中華風と、もうやりたい放題である。ところが、その珍妙さとは裏腹にアクションは抜群に格好いい。ブラック・ソードが忍者たちを次々となぎ倒していく戦闘は、彼の圧倒的な強さを一発で印象づけると同時に、文化的な正確さよりも「格好よさ」を貪欲に取り込む本作の姿勢を象徴している。

もっとも、考証よりも勢いを優先するそのごった煮感こそこの映画らしさなのかもしれない。古代の神話や伝承をありがたく保存するのではなく、怪物を巨大化し、英雄に必殺の武器を与え、悪役をスーパーヴィランへと変換して、現代の観客が熱狂できる娯楽へと語り直す。「ラーマーヤナ」も、アショーカ王をめぐる都市伝説も、奇天烈ジャパンも、格好いいものは分け隔てなくスクリーンへ放り込む。設定は過剰で、ときに粗っぽさすら感じることだろう。それでも成立してしまう底抜けの楽しさが『Mirai 運命の戦士』にはある。古代の物語から近代に生まれた伝説、現代のスーパーヒーロー映画やVFXアクションまでを一気に飲み込み、いまの観客に向けた冒険活劇へと作り替える。その豪快なサービス精神こそが、本作最大の魅力なのだ。

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著者プロフィール/ISO(イソ)

1988年、奈良県生まれのライター・編集者・インタビュアー。劇場パンフレットをはじめ、映画.com、CINRAなど多数の媒体に映画解説を寄稿。インド映画を含む国内外の映画を幅広く取材し、その魅力を発信しており、Xのフォロワー数は7万人超。

作品情報

ハリウッドを超えたVFX&アクションを体感せよ。
インド映画史に新たな歴史を刻む、待望の神話ファンタジー・アクション超大作がついに日本上陸。

【STORY】
神秘の力と古の武術。Miraiは彼に託された。

紀元前、悲惨なカリンガ戦争を経験したアショーカ王は、人間を神のような存在に変えることができる禁断の叡智を「9つの聖典(グランタ)」に封印した。強大すぎる力をもつ聖典は、悪用を恐れた王の命により、選ばれし9人の無名戦士たちによって歴史の闇の中で密かに守り継がれてきた。

時は流れ、現代。世界を永遠の闇「エクリプス」で覆い尽くそうと企む邪悪なカルト集団のリーダー、最凶の敵「ブラック・ソード」ことマハービール・ラーマーが動き出す。彼は不死の力を得るために次々と守護者たちを抹殺し、聖典を奪い去っていく。

世界が絶望の淵に立たされる中、最後の希望として運命の糸に導かれたのは、裏社会で生きる孤独な青年ヴェーダだった。自身に隠された出生の秘密を知らない彼は、愛する者たちと出会い、そして過酷な真実に直面することで、聖典を守るべく宿命づけられた伝説の戦士「スーパー・ヨーダ」として覚醒し始める―。

神の力を持つ弓「コーダンダ」を手にし、インド古来の棒術と超常的な能力を操るヴェーダは、圧倒的な強さを誇るブラック・ソードの野望を打ち砕くことができるのか。時空を超えた歴史の謎と、世界の命運を懸けた壮絶な戦いの火蓋が今、切って落とされる。

守護者の覚醒、伝説の始まり。

【CAST】
出演:テージャ・サッジャー、マンチュ・マノージ、リティカー・ナーヤク、シュリヤー・サラン、ジャヤラーム、ジャガパティ・バーブ、ラーナー・ダッグバーティ(カメオ出演)、プラバース(ナレーション)
監督・脚本・撮影:カールティーク・ガッタマネーニ
プロデューサー:T・G・ヴィシュワ・プラサード、クリティ・プラサード
音楽:ガウラ・ハリ
編集:A・シュリーカル・プラサード
Mirai(原題)/2025年/インド/テルグ語/167分/配給:インドエイガジャパン株式会社/配給協力:ギグリーボックス
©Dharma Productions&People Media Factory. All Rights Reserved.

公式HP:https://mirai-movie.com/
公式SNS:https://x.com/miraimovie_jp

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