聴こえない世界に生きるアンヘラ“幸せな出来事”が、日常を静かに壊し始める……。“疎外の世界”で揺れながら、懸命に生きる人に贈る“本当の幸せ”の見つけ方『幸せの、忘れもの。』が、5月1日(金)より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座ほか全国公開となる。

この度、本作のために制作された“ろう者向け手話解説動画”の紹介と、「幸せの【指差し、感想おしゃべりカード】」と題した入場者特典情報が解禁された!

新進気鋭の監督による本作は、観る者の心を深く揺さぶり、静かな熱狂を巻き起こした。第75回ベルリン国際映画祭で観客賞とアート・シネマ賞を受賞し、第28回スペイン・マラガ映画祭では観客賞を含む3部門、第40回ゴヤ賞でも最優秀新人監督賞ほか3部門を獲得している。監督は劇作家・社会学者としても活動するエバ・リベルタ。その多面的なキャリアは本作に大きな影響を与えている。主演のミリアム・ガルロはろう者の俳優であり、監督の実の妹でもある。リベルタが「きっと私たちは、一生をかけてこの映画を準備してきた」と語るように、二人の長年の実体験が色濃く反映され、研ぎ澄まされたリアリティが作品全体に宿っている。
ろう者と聴者のあいだに生まれるわずかなすれ違い、それぞれが抱える異なる疎外感――これまでの映画にはなかった繊細で絶妙な演出が冴えわたる。ろう者と聴者という象徴的な主人公像を軸にしながらも、母として、子として、夫婦として、そして“生きる人”として誰もが感じるふとした切なさや小さな孤独、必死にもがいた先に見えるささやかな幸福を鮮やかに描き出す。がんばってがんばって懸命に日々を過ごしている全ての人に贈る、本当の幸せへの道しるべ。

近年、障害のある人や高齢者を含む誰もが映画を楽しめる環境づくりとして、「バリアフリー上映」を導入する作品が増えている。音声ガイドは、映像に合わせて人物の動きや状況を音声で伝えるもので、主に視覚に障害のある人や視力が低下した人が利用する。一方、バリアフリー字幕はセリフだけでなく、「強い風が吹く音」などの環境音や効果音も文字で提示し、聴覚に障害がある人や音声が聞き取りにくい人の鑑賞を支えている。

しかし、日本における音声ガイド付き上映や字幕付き上映の普及率は依然として低く、特に洋画ではわずか1.4%にとどまっている(2023年 Japanese Film Project 調べ)。その背景には、東宝・東映・松竹・KADOKAWA・日活といった大手5社や洋画メジャーに比べ、インディペンデント系の映画会社では制作費に余裕がなく、バリアフリー版の制作が難しいという事情がある。上映数自体は年々増えているものの、「誰もが分け隔てなく作品を楽しめる上映」を当たり前にするには、まだ多くの課題が残されている。

さらに、「バリアフリー上映は健常者の鑑賞の妨げになるのでは」という声も根強い。字幕ガイド用スマートグラスやコントローラ、音声ガイドアプリを用いるクローズ方式は、大作や大規模劇場での導入に限られがちだ。そのため、インディペンデント作品では、映像に字幕を焼き付けたり、音響にガイドを組み込むオープン方式が採用されることが多い。また、字幕監修者や制作会社によって補助字幕の量や方針が異なり、情報量が多すぎると鑑賞の妨げになる場合もあるなど、最適な形を模索する過渡期にあるのが現状だ。

こうした状況を踏まえ、スターキャットアルバトロス・フィルムは、作品の理解を鑑賞前後に深められる“ろう者向け手話解説動画”の制作を開始し、公式サイトで公開した。ネタバレに配慮しつつ、鑑賞前動画では「ろう者がどのように本作を楽しめるか」を紹介し、鑑賞後動画では公式サイト、劇場掲示のポスターや、入場者特典「幸せの【指差し、感想おしゃべりカード】」に付けたQRコードからアクセスできる、演出意図を丁寧に解説した内容を用意している。

この手話解説動画に出演するのが、川口春奈さん・目黒 蓮さん主演ドラマ『silent』で手話監修・指導を務めた中嶋元美(なかじま・もとみ)さんだ。中嶋さんは、生まれつき難聴で高校生のときに中途失聴となったろう者であり、現在は手話表現者としてアイドル活動やパフォーマンスを行っている。
中嶋さんは今回の取り組みについて、「聞こえる人が映画を解説する動画があるように、聞こえないコメンテーターが手話で映画を紹介することで、単なるアクセシビリティではなく、“もうひとつの言語”として手話を取り入れてくれたように感じられ、とても良い取り組みだと思いました」と語る。

ネタバレなしの紹介動画では、キャラクターやストーリーを簡潔に紹介。本作が、従来の“ろう者=可哀そう”というステレオタイプとは異なり、当事者と非当事者それぞれの視点をリアルに描いた作品である点を強調し、ろう者でも十分楽しめる作品であることを伝える。ネタバレありの解説動画では、主人公の視線や振る舞いなど、ろう者だからこそ気づけたポイントに加え、途中で音が消える演出の意図などを丁寧に解説している。

 

映画の魅力を100%味わいたくても、視覚や聴覚の障害によって作品の情報を十分に受け取れない人がいる一方、バリアフリー版を制作するだけの資金力がない作品も少なくない。また、世の中に広く流通している映画解説の多くは健常者の視点によるものだ。今回の“ろう者向け手話解説動画”は、ろう者自身がろう者に向けて作品の魅力を伝えるという新しいアプローチであり、「映画を少しでも楽しめる環境づくり」に向けたバリアフリー化の新たな一歩として注目されている。

さらに入場者特典として、「幸せの【指差し、感想おしゃべりカード】」の配布も決定した。これは、身近にろう者がいても手話ができずコミュニケーションが難しい人や、映画の感想を気軽に共有したい人に向けたアイテムだ。シーン写真や“感動”“泣いた”といった絵文字、“お茶しませんか?”などのアイコンが可愛らしいイラストとともに並び、指差すだけで手話も口話も使わずに感想を伝え合える新しいコミュニケーションツールとなっている。本作の監督が語る「制度や方法よりも、交わろうとする姿勢が大事」という言葉を体現するべく考案されたもので、数量限定で配布される。

© 2025. Distinto Films SLU, Nexus Creafilms SL, A Contracorriente Films SL, Diverso Films AIE
© 2025. Distinto Films SLU, Nexus Creafilms SL, A Contracorriente Films SL, Diverso Films AIE

マジョリティがマイノリティの世界を真に理解して共存する準備が私たちは出来ているのだろうか? 本作やこの取り組みが、改めて共生への一歩を踏み出すことにつながってほしいものだ。『幸せの、忘れもの。』は、5月1日(金)より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座ほか全国公開。

「幸せの、忘れもの。」ポスタービジュアル© 2025. Distinto Films SLU, Nexus Creafilms SL, A Contracorriente Films SL, Diverso Films AIE

作品情報

映画『幸せの、忘れもの。』

監督:エバ・リベルタ/撮影:ジナ・フェレル・ガルシア
編集:マルタ・ベラスコ 音響:ウルコ・ガライ/サウンド・デザイン:エンリケ G. ベルメホ
出演:ミリアム・ガルロ、アルバーロ・セルバンテス、エレナ・イルレタ、ホアキン・ノタリオ 2025年/スペイン/スペイン語・スペイン手話(LSE)/99分/
原題:Deaf
提供:ニューセレクト/配給:スターキャットアルバトロス・フィルム
公式サイト