北米最大級のジャンル映画祭「第30回ファンタジア国際映画祭」にて、Animation Plus部門の今敏コンペティション<審査員特別賞>、長編アニメ部門<観客賞・金賞>をダブル受賞する快挙を成し遂げた、川尻将由監督初の長編アニメーション映画『CHERRY AND VIRGIN』(2027年公開予定)。
すでに海外の映画祭で高い評価を獲得し、注目を集める本作が、ついに日本の観客に向けて初お披露目! 「第39回東京国際映画祭」アニメーション部門に出品、ジャパンプレミアとなる公式上映後に川尻将由監督が登壇する舞台挨拶を開催した。

 創作に悩みくすぶりつづけるエロ漫画家の本田 遼と、プロ作家になる夢に挫折した腐女子で現実の男性に苦手意識を持つ榎本亜美という、30歳前後の互いにリアルな恋愛をしたことがない二人が、あるきっかけを通して偶然出会い、とまどいながらも他者と交わって生きることの“苦しさ”と“愛おしさ”を知っていくさまが、現代のサブカルチャーを通して描かれる“普遍的なラブ・ストーリー“として紡がれ、すでに海外映画祭で話題を呼ぶ本作。川尻監督の前作『ある日本の絵描き少年』(18)と同様に実写映像素材をベースにしてアニメーションを制作する“ロトスコープ”と呼ばれる手法によって制作、アニメーションをベースにしながらも、実写、漫画の要素を取り入れ、制作に参加するクリエーターのさまざまなデザインと世界観が1つのシーン内に描き出されるという、川尻の独創的な従来のアニメーションの枠を超えた映像表現も魅力になっている。
この度、第39回東京国際 映画祭のアニメーション部門に出品された、川尻将由監督の長編アニメーション 映画『CHERRY AND VIRGIN』のジャパンプレミアが開催され、上映後の舞台挨拶に川尻監督が登壇した。MCを務めた東京国際映画祭プログラミングアドバイザーの藤津亮太氏とのトークでは、独創的な映像表現の裏側や、作品に影響を与えた映画、制作秘話などが明かされた。

 まず、前作『ある日本の絵描き少年』に続き、本作でもキャラクターの絵柄が変化する独特の映像表現が採用されており、監督は本作の着想の原点を説明。前作では、商業エロ漫画家としてうまくいかなかった男性の半生を描こうと考えていたが、アウトサイダー・アートの作家たちの表現と漫画家の表現をひとつの映像の中で混在させたらどうなるのか、というアイデアが出発点だったという。さらに脚本を進める中で女性作家の存在にも関心が向き、当初はサブテーマだった女性側の物語をメインに据えたらどうなるだろうという着想を得、本作が生まれたと語った。そして制作当初から完成形が見えていたわけではなく、実際に本編で使用するツーショットを試行錯誤しながら制作。「とりあえず、基本<肩ナメ(肩越しからの視線)>でカラーとモノクロのキャラがずっと映るように、みたいなのを、コンテの中からやっていた」と、手探りで映像を作り上げていった過程を振り返った。

 また、主人公2人の生い立ちや心情がリアルに描かれている点については、知人や漫画家、イラストレーターへの取材を重ねて脚本を執筆したと説明。さらに、脚本制作中に親しい友人を亡くした経験が物語の大きな転機になったという。
葬儀の際、喫煙所で友人たちと交わした「童貞のまま死んだのかな」という会話も実体験だったと明かし、その出来事を作品に取り入れる許可を遺族から得たことで、物語の筋道がつながり、初稿が完成したと語った。

 主人公たちに共感しながらも、どこか一歩引いた視点で見つめる独特の演出については、『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』『チェイシング・エイミー』『恋人たちの予感』『パンチドランク・ラブ』などを挙げ、ポール・トーマス・アンダーソンやウェス・アンダーソン、チャーリー・カウフマンらの作品に見られる「クオーキー 映画」から強い影響を受けたと明かす。

 「そのジャンルの映画が、まさにその主人公に同情させすぎないで、感情が一色じゃない。これは笑えるのか泣けるのか、真面目なのか不真面目なのか、言語化が難しいジャンルの映画なんですけど。僕はその映画、そのジャンルをこの日本のアニメで実践したいっていうのがあって、こういう演出になっている」と、本作に込めた思いを語った。

 音楽についても、同ジャンルの映画音楽を数多く手がけるジョン・ブライオンをイメージとして発注したという。
「セックス・シーンの時にピアノの悲しい旋律の音楽が流れて、(画が)子どもになって、画としては結構ふざけてるギャグ調の感じが続くんですが、その時にもずっとベタ付けで悲しい音楽がながれているんですね。これがまさにもうクオーキー映画らしい演出なんですけど」と、笑いと切なさが同居する音楽表現へのこだわりを明かした。

 さらに、劇中で使用される楽曲『愛・おぼえていますか』についても言及。『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』で知られる同楽曲を、皮肉を込めて使用したかったと説明。「(「マクロス」では)皆最初同じ星の生き物だったみたいなのがあるんですけど、僕はもう逆だろうと。同じ星の生き物だと他人を思っちゃうから生まれるトラブルだろう、っていうのがあって、まず皮肉として使いたいっていうのがあった。あと、やっぱ制作途中にですね、この何年間で、キャンセル・カルチャーだったり男女間のトラブル、スキャンダルって結局センシティブにあったわけで、そのこともちらっと出てますけど、ちょっとマイルドにしたいと。でこの曲をかけたんですが、でもそれがなんかまさに『マクロス 愛、覚えていますか?』で使われたその曲の使い方とまあまあ一緒になっちゃったかなと。戦争の最中にアイドルソングをかけるっていう、その手法が、まんま自分が同じことをやってるというか、それが大事だったんだなっていうのを使った後に感じました」と語った。

 本作のロトスコープにおけるキャスティングについては、企画初期に作画スタッフや俳優をインターネットで募集したことを明かし、参加した清瀬やえこ、大門 嵩について、声の良さや姿形に加え、長期間の制作に協力してもらえることも決め手になったと説明。コロナ禍で撮影が思うように進まない時期も、作品を気に入って参加し続けてくれた2人と、演技について相談しながら一緒に作り上げられたことが何より良かったと感謝を述べた。

 最後に、来場者へ向けて「この作品は小さい規模ではありますが、題材的にもなかなかどう人に勧めていいか、ちょっと難しいかもしれないんですけども、もし気に入ってくださったら、ぜひいろんな方に広めたりとか、SNSでレビューを書いてくださったりとかで、それでいろいろな劇場でもかかるチャンスにめぐまれていくと思いますので、皆さんもできればお力添えよろしくお願いいたします」と呼びかけ、舞台挨拶を締めくくった。

長編アニメーション映画「CHERRY AND VIRGIN」ティザーポスタービジュアル

長編アニメーション映画「CHERRY AND VIRGIN」ティザーポスタービジュアル