『隣人たち』ゆっきゅん、山崎まどか登壇トーク!
登壇トーク
日程:7月15日(水) 19:00〜20:34
場所:渋谷ユーロライブ
登壇:山崎まどか (コラムニスト)、ゆっきゅん(DIVA)
二大オスカー俳優アン・ハサウェイ×ジェシカ・チャステイン狂演! この不安は本能が感じ取った危機? それとも私の妄想? 高まっていくサスペンスの果てに、やがて事態は予想もつかない衝撃のクライマックスへと舵を切る。狂気渦巻くサイコ・スリラーが今、幕を開けるー!! “ベルギーのアカデミー賞”マグリット賞で、監督賞・作品賞含む史上最多の9部門を受賞し、ベルギー映画史を塗り替えた珠玉の作品『母親たち』(18)のリメイクが、ハリウッドからの熱烈ラブコールにより実現した、疑念と妄想が渦巻くサイコ・スリラー『隣人たち』(7/24[金]公開)。この度、本作の試写会が開催され、DIVAのゆっきゅんとコラムニストの山崎まどかが登壇。本作の魅力や1960年代のアメリカの時代背景、映画史とのつながりについて語り合った。
本作では主演だけでなくプロデューサーも務めている、主演のアン・ハサウェイとジェシカ・チャステイン。山崎は「ジェシカ・チャステインが大好きで、“チャス子”と呼んでいる」と笑いを誘う。続いて話題は監督のブノワ・ドゥロームへ。本作はリメイク作品だが、当初予定されていた監督が撮影開始直前に降板。そこで『青いパパイヤの香り』などで知られる撮影監督ブノワ・ドゥロームに白羽の矢が立ったという。山崎は「映像美に定評のある撮影監督で、主演二人から“あなたがやりなさいよ”と背中を押されて監督を引き受けた」と制作秘話を紹介した。
本作の舞台は1960年代前半のアメリカ郊外。似たような家に住み、似たような夫を持つ二人の主婦の関係が描かれるが、山崎は作品の設定について、「家も色違いなだけで、<彼女たち>は代替可能な存在なんです。お互いの家の合鍵を持ち、ほぼイコールな関係だった二人の均衡が、片方の息子が事故で亡くなったことをきっかけに崩れ、関係性がどんどん危うくなっていく」と解説。ゆっきゅんも「夫たちは見分けはつくんだけど、見た目の印象は同じです」と笑いながら応じた。
また、本作では郊外という閉ざされた空間そのものが重要な意味を持っているという。
山崎は、「夫たちは車で30分から1時間ほどかけて都心へ働きに出ている。一方、彼女たちが暮らすのは住宅街で、中心に少し商店や学校があるだけ。それ以外は似たような家が並んでいる」と説明。ゆっきゅんも、「他の隣人もほとんど出てこないんですよね」と補足した。
さらに山崎は、1960年代の郊外住宅地を舞台にした物語に共通するテーマについても言及。
「均一な美しさの中に、実は完璧さの裏側にあるグロテスクなものが潜んでいる。それは昔からよく描かれてきた題材ですよね」。
その例としてデヴィッド・リンチ作品にも触れ、『ブルーベルベット』を挙げながら、「完璧な芝生があって、バラが咲いていて、オールディーズが流れている世界に、突然人の耳が落ちている。そういう恐ろしさですよね」と語り、本作にも通じる魅力を指摘した。
作品を観ながら、ゆっきゅんはアルフレッド・ヒッチコックだけでなく、ダグラス・サークのメロドラマも思い出したという。劇中では、窓越しに相手を見つめる場面や、扉を閉める、開けない、カーテンを閉めるといった演出が繰り返されるが「一番分かりやすいところで言うと、窓ですね。窓の中に主婦が閉じ込められている、という演出はよく出てくるんです」「そこだけではなくて、いろいろなところに閉塞感を演出する仕掛けがあるなと思いながら観ていました」と振り返り、二人の心理が少しずつ崩れていく過程こそ、本作の大きな見どころの一つだと語り合った。
二人が特に興味深いと語ったのは、物語の中心にいる息子たちの存在だという。ゆっきゅんは、序盤で息子たちが巣箱を作る場面を挙げながら、「この物語の構造を握っているのは父親たちではなく息子たちだと思った」と語る。山崎も「家を守ろうとする母親たちに対して、その家を壊してしまうのが子どもたち」と応じ、さらに、本作が1960年代前半を舞台としていることに注目。
「ファッションを見ると、ビートルズ革命以前なんです。ケネディ時代の、理想的な家庭像がまだ機能している頃。でも、その後には学生運動や反戦運動、ロック・カルチャーが押し寄せてくる」つまり本作は、戦後アメリカの理想的な家庭像が崩壊していく予兆も描いているのだという。
山崎は大好きだというジェシカ・チャステインについても熱弁。「彼女は仕事に人生を全振りしてきた女性を演じると本当にうまい。そんな女性が郊外の専業主婦になったらどうなるかを考えてほしい」劇中のアリスはかつて記者として働いていたが、現在は家庭に収まっている。しかし仕事に全力を注ぐタイプの人間だからこそ、今度は“完璧な家庭”に人生を賭けてしまう。「当時の女性たちはみんなそうだったのかもしれない。だから彼女の演技には説得力がある」
一方で、ゆっきゅんはアン・ハサウェイについて、「現代的な顔立ちや存在感が強く、時代劇の中にいても“アン・ハサウェイらしさ”が消えない。それがスターとしての魅力でもある」と語った。
後半は、本作が随所で参照しているアルフレッド・ヒッチコック監督についての話題に。山崎は「ヒッチコックが偉大なのは、彼の技法が“オープンソース化”していること」と表現しつつ、「ヒッチコックを見れば、“こういうことをやりたいならこう撮ればいい”ということが分かる。だから後の 映画作家たちが自由にハックできる」本作もまた、ヒッチコック的なサスペンスの手法を借りながら、郊外に閉じ込められた女性たちの視点へと組み替えている点について「フェミニズム映画だと声高に主張しているわけではないけれど、女性の視点からヒッチコック的な世界を読み替えている作品だと思う」とし、ゆっきゅんも「映画を学ぶ上でヒッチコックは避けて通れない存在。その技術をどう継承し、どう更新していくかが大事」と応じた。
物語の序盤では、親友同士として慈しみ合う二人。しかしその視線は、やがて監視へと変化していくー最後にふたりは、本作で描かれる女性同士の友情についても言及。
ゆっきゅんは「友情や慈愛のまなざしだったものが、防犯カメラのような監視の目になっていく」と表現、山崎も、映画の冒頭友情の象徴として登場するパールのネックレスに注目する。
「最初は愛情の証だったものが、だんだんコミュニティに縛られる“鎖”の象徴になっていく」と述べ、さらに山崎は、本作が描く“相互監視社会”は現代のSNSにも通じると指摘。「今なら、お隣同士だけど会話はしていない。でもお互いのInstagramは見ている、みたいな関係ですよね」と述べた。
1960年代の郊外を舞台にしながらも、『隣人たち』は現代社会における視線や監視、比較の問題を映し出した本作。二人のトークは、作品の持つ多層的な魅力を改めて浮かび上がらせる時間となった。






