日時:127日(火)20:45-2115(本編上映終了後) 

■場所:キノフィルムズ試写室

■登壇者: ゲスト:森直人(映画評論家)、進行:立田敦子(映画ジャーナリスト)

『ザ・ホエール』(2023)、『ブラック・スワン』(2010)でアカデミー賞®を受賞し、『レスラー』(2008)ではヴェネチア国際映画祭金獅子賞に輝くなど、商業的にも作家的にも大きな成功を収めてきた鬼才ダーレン・アロノフスキー。わずか6万ドルの低予算で製作したデビュー作『π』(1997)でサンダンス映画祭最優秀監督賞を受賞、一躍世界の注目を集めた彼の監督2作目を4Kリマスター化した『レクイエム・フォー・ドリーム 4Kリマスター』(公開中)。
この度、映画評論家の森 直人と映画ジャーナリストの立田敦子により本作の深掘りトークイベントが開催された。

物語の舞台は、ニューヨーク、コニー・アイランド。サラ(エレン・バースティン)は一人息子のハリー(ジャレッド・レト)と暮らしている。サラの唯一の楽しみは、TVを見ながらチョコレートを食べること。ある日大好きなクイズ番組のスタッフを名乗る人物から出演を依頼されたサラは、サイズアウトした赤いワンピースを着るために「ダイエット薬」に手を出す。ハリーは恋人マリオン(ジェニファー・コネリー)との未来に向けて友人のタイロン(マーロン・ウェイアンズ)と麻薬売買を始める。それぞれに夢を抱いていたはずの彼らは、やがて抜け出せない地獄へと堕ちていく――。

ダーレン・アロノフスキー監督作『レクイエム・フォー・ドリーム 4Kリマスター』の公開を記念し、本作の位置づけや時代背景、そして現在あらためて観る意味について語り合うトークイベントが開催された。
“見たら落ちる映画”史上ナンバーワンとも伝説化している本作について、森は「本当に傑作ですよね。今あらためて観る意味もあると思います」と切り出し、日本公開が2001年7月だったことを振り返る。当時アロノフスキー監督はまだ30歳前後の新鋭であり、自主制作のデビュー作『π』(1998)で注目を集めた後の第2作が本作だったと解説した。
立田もこれに続き、「鬼才アロノフスキーの出世作であり、2000年製作の本作は“トラウマ映画”“鬱映画”として語り継がれてきた」と紹介。4Kリマスターとして劇場に戻ってくることへの思いを問われた森は、リアルタイム世代としての視点から語った。
本作は撮影のマシュー・リバティーク、音楽のクリント・マンセルら『π』と同じチームによるインディペンデント作品でありながら、前作より予算規模も拡大、豪華キャストを迎えカンヌ国際映画祭にも選出された“トレンドセッター”的存在だったという。「現在は“トラウマ級の傑作”と言われますが、当時はむしろ“イケている映画”として受け止められていた」と森。立田も「流行りの作品でしたね」と同意し、90年代後半のフィンチャー作品や『トレインスポッティング』の流れの中で、本作が“最後の真打ち”のような存在だったと振り返った。
さらに話題は、アロノフスキーの作家性へ。森は学生時代から原作者ヒューバート・セルビー・Jrのファンだった監督が脚本にも参加し、原作小説を土台に自身のテーマを色濃く反映させたと分析。両者の議論の中で浮かび上がったキーワードは「アディクション(依存)」だった。森は来日時インタビューした際の監督の言葉を引き、「薬物に限らず、人間の欲望や夢そのものへの依存を描くことが主題」と指摘。登場人物たちのドラッグ、 テレビ、成功願望といった多様な依存のあり方を通じて、“夢が悪夢へ反転する瞬間”を描いている点こそ本作の核心だと語った。
また1990年代末という時代背景にも話は及び、アメリカン・ドリームへの信仰が残る消費社会へのアンチテーゼとしての側面や、21世紀的状況を予見する視点を持っていたことにも言及。森は「アロノフスキーの映画は常に“アメリカン・ドリームの陰画”を描いている」とし、本作がその原型となった重要作であると位置づけた。
映像表現についても評価は高い。分割画面や極端なクローズアップ、高速編集などを駆使した手法は後続作品に影響を与え、森は監督自身の造語でもある映像手法「ヒップホップ・モンタージュ」に触れながら、約2000カットに及ぶ編集量が生み出す独自の高揚感を解説。こうしたスタイルが当時のクラブ・カルチャー的感覚とも結びつき、“絶望的な物語をアッパーなテンションで見せる”魅力になっていたと語った。

キャストについては、ジャレッド・レトやジェニファー・コネリーら若手俳優の体当たり演技がキャリアの転機となった点を強調。さらに、今見返すとエレン・バースティンの存在感の大きさに改めて驚かされることについても述べ、俳優の挑戦を引き出し、さらなる評価につなげる点もアロノフスキー作品の特徴だとした。
日本文化からの影響にも言及も。森は今 敏監督『パーフェクトブルー』からの視覚的引用など、日本のサブカルチャーへの監督の関心を紹介。多様な影響を取り込みながら自作へ引き寄せる姿勢こそ彼の強みだと語った。
トークの締めくくりに森は、「アロノフスキー作品には一貫して通底するものがある。まずこの作品を中心に見ていくと面白い」と総括。『レクイエム・フォー・ドリーム』が監督の原点であり、その後のフィルモグラフィ全体を読み解く鍵となる一本であることを強調し、イベントは幕を閉じた。

『レクイエム・フォー・ドリーム 4Kリマスター』

監督:ダーレン・アロノフスキー
脚本:ヒューバート・セルビー・Jr.、ダーレン・アロノフスキー
原作:ヒューバート・セルビー・Jr.
出演:エレン・バースティン、ジャレッド・レト、ジェニファー・コネリー、マーロン・ウェイアンズ
2000年/アメリカ/英語/102分/カラー/ビスタ/5.1ch/字幕翻訳:髙橋彩/原題:Requiem for a Dream/R15+

日本公開:2026年2月6日(金)より新宿武蔵野館ほかにて全国順次公開
配給:クロックワークス
公式サイト