1945年、沖縄県伊江島で激しい攻防戦が展開される中、二人の日本兵が木の上に身を潜め、終戦を知らずに2年もの間生き延びた――そんな衝撃の実話から着想を得た作家・井上ひさしが原案を遺し、こまつ座にて上演された舞台「木の上の軍隊」が映画化。6月13日(金)より沖縄にて先行公開、7月25日(金)より全国公開となります。
宮崎から派兵された厳格な少尉を演じるのは、確かな演技力で日本の映画界を牽引してきた名優・堤 真一。沖縄出身の新兵に抜擢されたのは、数々の話題作で存在感を示す山田裕貴。ダブル主演を務める堤と山田は初の共演ながら、阿吽の呼吸で極限状態の兵士たちを、繊細かつ力強く、そして人間らしい可笑しみをもって表現する。監督と脚本を手掛けるのは、『ミラクルシティコザ』のスマッシュヒットが記憶に新しい沖縄出身の新進気鋭・平 一紘。全編沖縄ロケ、伊江島では実際に生い茂るガジュマルの木の上で撮影が敢行された。
太平洋戦争末期から戦後にかけての沖縄県・伊江島で、日本軍の敗戦を知らずに2年間、ガジュマルの樹上に身を潜めて生き抜いた2人の兵士がいた——その実話をもとに作られた舞台「木の上の軍隊」が映画化、終戦から80年を迎える今年公開される。戦争体験者が少なくなる今の時代に、あらためて語り継がれるべき「人間の尊厳と生への執念」を描いた感動作が誕生する。
本作のモデルとなったのは、実在した人物、宮崎県出身の山口静雄さん(当時28歳)と、沖縄県・うるま市出身の佐次田秀順さん(当時36歳)。
沖縄戦の中でも激戦地のひとつとなった伊江島は沖縄本島北部から北西9キロの海上に浮かぶ一島一村(伊江村)の離島。1945年4月16日に米軍が上陸し、4月21日までの6日間、激しい攻防戦が展開され壊滅的な被害を受ける。その戦いで3,500名もの多くの兵士や住民が命を落とした。山口さんと佐次田さんは、数名の兵士とともに壕を転々としていたが、戦況が激化するなかで徐々に仲間を失い2人だけに。そして、米軍の目を逃れるためにうっそうと葉が生い茂るガジュマルの木に登って身を潜め、想像を絶する樹上生活を始める。こうして始まった“たった2人の孤独な戦い”は、戦後の日本という時間軸に取り残されたまま、1947年まで続くことになる。
2人は木の枝を折り、葉を重ねて下から見えないように大きな“巣”を作った。地上に降りるのは夜のみで、食料は米軍が捨てた残飯やわずかに焼け残った野菜を探して命をつないだ。後に米軍のゴミ捨て場も見つけ、剃刀と鏡で髭を剃り、捨てられた軍服も着るようになる。佐次田さんは、破傷風にかかった山口さんのために砂糖水を探し与え、看病に尽力。極限状態の中でも、2人は夜な夜な空を見上げては家族の無事を祈り、郷里の方角に向かって敬礼することを欠かさなかったという。劇中の2人の生活も、史実に基づくエピソードが多く反映されている。
撮影中、実在した人物をモデルとした役柄を演じることに堤は「僕自身も知らなかったことが多く、この映画を通して実際にこういうことがあったんだと知り、学びました。時が経ったからこそ、細かいことまでつまびらかにしていかなくてはならないと改めて感じました」と語り、山田も「作品を通して僕も知らなかった沖縄の歴史を知ることができ、こういう時代があったから、生き抜いた人たちがいたから、今があるんだと再認識することができました」とその思いを滲ませた。
監督・脚本を手がけた平一紘は、沖縄出身。山口さんと佐次田さんのご家族や戦争体験者への綿密な取材を何度も行い、その度に脚本の改稿を重ねて昇華させ、沖縄の空気や自然、そして戦争の記録と記憶までも、真正面から映し出している。
山口さんと佐次田さんが当時身を隠したガジュマルの大木は「ニーバンガズィマール」と呼ばれ、今も伊江島に残されており、「命を救った神木」として語り継がれている。2023年の台風で倒木したが、島の人々の手によって土を入れ替えて再建され、再び力強く根を張っている。まさに“人間が生き抜いてきた歴史の象徴”とも言える存在だ。
本作のロケは全編沖縄で、舞台の主となる木の上のシーンは、本作のために数ヶ月かけて伊江島の公園に植樹したガジュマルの樹上で撮影された。撮影時には、山口さんの次男・山口輝人さん、次女・政子さん、三女・春子さんと、佐次田さんの次男・佐次田満さん、長女・京子さんが来島。ニーバンガズィマールの前で対面を果たし、揃って撮影現場にも訪れた。戦後生まれの春子さんは「ここで二人が出会って、頑張ってくれなかったらなかった命。子供たちとか孫とかに広がっていかなかった」と語っていた。
左より:佐次田満さん(次男)、山口輝人さん(次男)、政子さん(山口さん次女)、春子さん(山口さん三女)、京子さん(佐次田さん長女)
本作は、単に戦争を題材にしている映画ではない。その時代に翻弄されながらも、過酷な状況の中で、必死に生き抜いた2人の人間の姿を描いている。戦後80年を迎え、“新しい戦前”とも言われる現代において、次世代に継承すべき物語として、そのメッセージは一層重みを持つ。『木の上の軍隊』は、戦争の史実と共に、“生きること”への希望を描いた、事実に基づく映画である。
6月13日(金)沖縄先行公開/7月25日(金)新宿ピカデリー他全国ロードショー
物語 |
原作:「木の上の軍隊」
株式会社こまつ座・原案:井上ひさし
作家・井上ひさしが生前やりたい事として記していたオキナワを舞台にした物語。タイトルは「木の上の軍隊」。
井上が遺した1枚のメモを基に、井上ひさし没後、こまつ座&ホリプロ公演として2013年、藤原竜也、山西惇、片平なぎさを迎え初演された。その後、「父と暮せば」「母と暮せば」と並ぶこまつ座「戦後“命”の三部作」位置づけられ、16年、19年にはこまつ座公演として山西惇、松下洸平、普天間かおりが出演し、再演、再々演され、19年には沖縄でも上演。世界からも注目され様々な国から上演依頼がある作品である。2023年6月より韓国公演がスタートし8月の終演までソールドアウトの人気を博した。
出演:堤 真一 山田裕貴
津波竜斗 玉代㔟圭司 尚玄 岸本尚泰 城間やよい 川田広樹(ガレッジセール)/山西 惇
監督・脚本:平 一紘
原作:「木の上の軍隊」(株式会社こまつ座・原案井上ひさし)
主題歌:Anly
企画:横澤匡広
プロデューサー:横澤匡広 小西啓介 井上麻矢 大城賢吾
企画製作プロダクション:エコーズ
企画協力:こまつ座
制作プロダクション:キリシマ一九四五 PROJECT9
後援:沖縄県 特別協力:伊江村
製作幹事・配給:ハピネットファントム・スタジオ
©️2025「木の上の軍隊」製作委員会