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10/10公開の新作ドキュメンタリー映画『バレンと小刀 時代をつなぐ浮世絵物語』公開決定

NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」や映画「国宝」の大ヒットで、浮世絵や歌舞伎といった江戸の伝統文化に初めて触れ、沼にはまる人々が急増している2025年。ドラマに合わせて東京国立博物館で開催された特別展「蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児」には20万人を超える来場者が押し寄せ、7月には北海道小樽市に浮世絵美術館が開館するなど、浮世絵への関心は高まっている。

そんな浮世絵人気を支えるのが、1928(昭和3)年創業のアダチ版画研究所だ。江戸時代後期に、世界最高峰といわれるまでに発展した浮世絵の版画技術を守り、継承することまもなく100年。これまで版元として北斎、広重、歌麿、写楽など、江戸時代の名作を復刻し国内外に届けてきたが、近年、新たな現代の浮世絵を創作するプロジェクトに挑戦している。世界を舞台に活躍する草間彌生、ロッカクアヤコ、アントニー・ゴームリーなど様々なアーティスト38名を絵師に迎え、ゼロから浮世絵を作り出すコラボレーションである。およそ5年かけて86作品を制作し、2025年春に東京国立博物館で開催される「浮世絵現代」展での発表を目指す。

画像2写真:稲葉真

彫師と摺師にとって、絵師たちが託した原画とアイデアは何もかもが革新的で、浮世絵表現の常識を覆すものばかりだ。しかし、職人たちは静謐な空気が満ちた工房で、江戸から伝わる超絶技巧を駆使して浮世絵に仕上げる。時には絵師の鋭い指摘に試行錯誤しながら、小刀とバレンでさらなる高みを求めていく。

監督は「≒草間彌生 わたし大好き」(08)、「氷の花火 山口小夜子」(15)、「掘る女 縄文人の落とし物」(22)の松本貴子。ロッカクの指先から生まれる色の重なりや、草間の迷いのない筆使いを超クローズアップで撮影した創作風景はアートファン必見だ。「べらぼう」の時代では男性中心だった世界に若い女性職人が増え、地方在住でも子育て中でも摺師の仕事は両立可能という現実も教えてくれる。

浮世絵とはその時々で人々が注目するものを取り上げるものだった。唯一無二の版元、アダチ版画研究所の企みは斬新でありながら、原点回帰なのである。まさに「令和の浮世絵」の誕生を目撃するドキュメンタリー作品に仕上がっている。

▼松本貴子監督コメント
2013年、アダチ版画から「どうしても草間彌生さんを絵師に迎えたい」と熱望された。思い切った発想を意気に感じ一肌脱いだ事で、浮世絵の渦に巻き込まれた。驚いたのは職人達の仕事ぶり。気が遠くなる程の忍耐力と集中力。 AIの時代に、この地道な作業は必要なの?という思いが何度も頭をよぎったけれど、出来上がったものを見れば、その愚問も吹っ飛ぶ。現代アーティスト達と伝統木版画職人の異種格闘技。その闘いを、映画にまとめられたのは、この上ない喜びだ。2時間ほどの中に詰め込むのは至難の技だったけれど、その場の空気を届ける事ができたのではないかと思う。どうぞ「現代の浮世絵」が生まれる瞬間に立ち会って下さい。
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