映画

本編映像『ジュリーは沈黙したままで』

2025年アカデミー賞国際長編映画賞のベルギー代表に選出され、2024年カンヌ批評家週間でプレミア上映、SACD賞を受賞。『Girl/ガール』(18)、『CLOSE/クロース』(22)のルーカス・ドンに続くベルギーの新鋭、レオナルド・ヴァン・デイルの長編デビューとなる『ジュリーは沈黙したままで』が10月3日に公開される。そしてこの度、観客を“没入世界”へと誘う本編映像が解禁された。

ベルギーのテニスクラブに所属する15歳のジュリー(テッサ・ヴァン・デン・ブルック)は、その実力によって奨学金を獲得し、いくつもの試合に勝利してきた、将来を有望視されているプレーヤーだ。しかし、ある日、信頼していた担当コーチのジェレミー(ローラン・カロン)が指導停止となりクラブから姿を消すと、彼の教え子であるアリーヌが不可解な状況下で自ら命を絶った事件を巡って不穏な噂が立ちはじめる。

ベルギー・テニス協会の選抜入りテストを間近に控えるなか、クラブに所属する全選手を対象にジェレミーについてのヒアリングが行われ、彼と最も近しい関係だったジュリーにとっては大きな負担がのしかかる。テニスに支障を来さないよう日々のルーティンを崩さず、熱心にトレーニングに打ち込み続けるジュリーだったが、なぜかジェレミーに関する調査には沈黙を続け……。

「行かない」―この度解禁されるのは、緩やかな同調圧力をかけてくるチームメイトに対し、ジュリーが自らの意思を貫こうとするシーン。固定カメラによる静謐なフレーミングの中、光と影のコントラストに人物が沈み込み、そこから突然場面が動き出すことによって、一人の少女の心情が浮かび上がっていく。

本作の特徴的な撮影を担当したのは、『クルエラ』(2021)や『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』(2017)などで知られる撮影監督ニコラス・カラカトサニス。『アイ,トーニャ』では手持ちカメラやドキュメンタリー的な動きによってトーニャの視点を映し出し、『クルエラ』では主人公が状況を支配する瞬間や心情が爆発する場面で主観的に寄り添うカメラを駆使。固定カメラから動きのあるカメラへー本作でもいずれも<外から観察する>のではなく、<主人公の内面に入り込む>ような効果を生むアプローチが特徴的であり、本作においても単なる物語の記録を超え、観客を“没入世界”へと誘う映像を実現している。

監督は、カンヌ国際映画祭コンペティション部門にも出品、ケガを隠して競技を続ける12歳の体操選手を描いた短編『STEPHANIE』(20)で注目を集めた、ベルギーの新星ヴァン・デイル。本作でも監督はスポーツ界で子どもが「小さな大人」として扱われる現実に強い問題意識を投げかける。そんな本作の共同プロデューサーとして名を連ねるのは、社会問題に光を当て続けてきたベルギーの巨匠ダルデンヌ兄弟。また、この物語に共感を示したテニス界のスター・大坂なおみが、エグゼクティブ・プロデューサーとして公式に後押しすることも話題に。過去、大坂がメンタルヘルスの重要性を訴えたことに大きく感銘を受けたヴァン・テイル監督は、「彼女が声を上げてくれたことで、世界中の少女たちに“NOと言う選択肢”が開かれた。本当に価値あることです」と語っている。

主人公となる、15歳の天才ジュニア選手・ジュリーを演じたのは、実生活でも若きテニス選手であるテッサ・ヴァン・デン・ブルック。そのリアルな競技描写が、沈黙は弱さによるものではなく、強い意志の象徴であると悟らせ、選手とコーチの関係性という曖昧で危うい領域に迫りながら、試合に向けたサーブの練習、けがのリハビリ、ジムでのトレーニングといった断片的なシーンの連続が、少女がスポーツを<逃げ場>として利用していることを浮き彫りにしていく。また、登場するティーンエイジャーたちは全員ノンプロの俳優。実際の所属クラブの仲間たちを他の子役に起用することで、監督は幼い主演俳優が安心できる空間づくりを徹底した。

35mmと65mmフィルムで捉えられた美しい映像は、『ダム・マネー ウォール街を狙え!』(23)、『クルエラ』(21)などで知られるニコラス・カラカトサニスの撮影によるもの。固定カメラによる静謐なフレーミングで、しばしば自然光のコントラストの中に人物を沈ませ、まさにダルデンヌ兄弟を思わせる自然主義的な手法で一人の少女の感情を浮かび上がらせていく。そして、緊張感のあるボーカルスコアは、アメリカの現代クラシック作曲家キャロライン・ショウ。ヴァン・ディルとベカールによる脚本は、思春期の揺れ動く心理に寄り添いながら、観る者にジュリーの沈黙の行方をそっと委ねている。

©2024, DE WERELDVREDE

  『ジュリーは沈黙したままで』(英題:Julie Keeps Quiet)

監督:レオナルド・ヴァン・デイル
出演:テッサ・ヴァン・デン・ブルック、クレール・ボドソン、ピエール・ジェルヴェー、ローラン・カロン ほか
2024/ベルギー・スウェーデン合作/オランダ語・フランス語・ドイツ語/100分/カラー/5.1ch/1.85:1/原題:Julie zwijgt/日本語字幕:橋本裕充

日本公開:2025年10月3日(金)新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋ほか
配給:オデッサ・エンタテインメント
©2024, DE WERELDVREDE

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