公開記念舞台挨拶
日程:6月21日(土)
場所:新宿ピカデリー
登壇:鈴木唯、石田ひかり、リリー・フランキー、河合優実、早川千絵(監督)
本作は、長編初監督作品『PLAN 75』(2022年)で第75回カンヌ国際映画祭・カメラドール特別賞を受賞し、同年のアカデミー賞®日本代表にも選出されるなど、国内外の映画祭で高く評価された早川千絵監督による待望の最新作です。
物語の舞台は1980年代後半の夏。闘病中の父と仕事に追われる母とともに暮らす、11歳の少女・フキの日々を描いています。
主人公フキ役には、多数の応募者の中からオーディションによって選ばれた新人・鈴木唯が抜擢されました。
母・詩子役には石田ひかり、父・圭司役にはリリー・フランキーと、実力派俳優が脇を固めます。さらに、フキが出会う大人たちとして中島歩、『PLAN 75』に続いて出演する河合優実、そして坂東龍汰さんら注目の若手俳優陣が顔をそろえています。
父・圭司を演じたリリーは、撮影の合間には鈴木と和やかな会話を交わしていたそうです。ある日、鈴木から「子どもの頃の一番古い記憶は何ですか?」と尋ねられた際には、「酔って帰宅した父に、冷めた焼き鳥を口に入れられたこと。3歳頃だったかな。あとは、近所のマネキン工場が火事になったこと。そういうことの方がよく覚えてるよね」と当時を振り返り、年の離れた共演者との自然な会話を楽しんでいた様子を笑顔で語っていました。

主演を務めた鈴木は、多数の候補者の中からオーディションを経て選ばれ、当時11歳で撮影に臨みました。撮影の思い出について、鈴木は「雨のシーンがとても大変でした。実際に早朝5時ごろ、まるでゲリラ豪雨のような激しい雨の中で撮影したんですが、夏とはいえとても寒かったです」と振り返っています。

そのエピソードに対し、父親役を演じたリリーが「そのシーン、僕も出ていますよ」と笑いながらコメント。さらに、「あの雨は降らせたものではなく、本物の雨。あまりにも激しくて…」と、撮影の裏話を明かしました。
鈴木は「あれが人生で一番寒い経験だったと思います」と語り、リリーも「朝5時からのあの大雨のシーンがあったからこそ、物語が自然につながった。良い映画は天気にも助けられるものです」と撮影を振り返りました。さらに、「11歳の朝5時と、61歳の朝5時では大変さが全然違いますね」と冗談を交え、現場での和やかな雰囲気を感じさせるやり取りとなりました。

脚本では本来、雨のシーンとしては想定されていなかったものの、スケジュールの都合により、実際に降っていた雨の中で撮影を行うことになったそうです。早川千絵監督は当時を振り返り、「予期せぬ状況ではありましたが、結果的にとても印象的なシーンになり、現場でも心を動かされるような瞬間でした」と語っており、この偶然が作品に新たな深みを加えるきっかけとなったことを明かしています。
イベントでは、「11歳の頃の自分」をテーマにしたトークが行われ、キャスト陣がそれぞれの記憶を語りました。

河合は、幼い頃に感じていた漠然とした恐怖について触れ、「実家は2階建てだったのですが、2階に上がるのも1階に下りるのも怖くて。何かに追いかけられるような気がしたり、2階には何かがいるんじゃないかと思って、いつも早足で移動していました」と、当時の心情を振り返りました。

石田は、訪れた家庭ごとの“におい”について印象深い記憶を語り、「よそのお宅に行くと、その家特有のにおいがして、それがとても印象的でした。今でも家ごとににおいはありますが、子どもの頃はそれをより敏感に感じていて。のぞいてみたいけれど行けない、行けないけれどのぞいてみたい…そんな葛藤もありました。出されるケーキやお皿も、家では見たことのないもので、何もかもが新鮮でゾクゾクするような気持ちを抱いていたのを覚えています」と、少女時代の繊細な感覚を丁寧に語っていました。
リリーは、「自分がいつ大人になったのか、実はよく分からないんです。母やこれまでお付き合いしてきた方々から、共通して“幼稚”だと言われることが多くて。だから、まだ大人になっていないのかもしれません」とユーモアを交えて語りました。その上で、「いつか本当に大人になれたら、車の免許を取って、結婚についても語れるようになりたいですね」と、軽やかに話していました。
イベントの終盤には、主演の鈴木から共演者へのサプライズとして、感謝の手紙が読み上げられました。
石田に対しては、「撮影中ずっと優しく接してくださって、一緒にいると安心できました。大先輩の俳優としての演技が本当に素敵で、自分も見習いたいと思いました」と、感謝の気持ちと尊敬の念を込めた言葉を贈り。
河合に宛てた手紙では、「本番前に2人で演技について話し合ったことが印象に残っています。年下の私にも真剣に向き合ってくださり、本当に感謝しています。河合さんの台詞の言い方や表情、仕草がとても美しく、どこか儚さを感じさせる演技がとてもかっこいいと思いました」と、丁寧な言葉で思いを伝えました。
鈴木のまっすぐな言葉を受けて、河合は「唯ちゃんのおかげで、この映画に出演できて本当によかったと思っているのは、きっと皆同じだと思います。ありがとうございました」と感謝の気持ちを述べ、温かなやり取りが会場を包みました。
続いて、監督とキャスト陣から主演の鈴木へサプライズで花束が贈られる一幕がありました。この思いがけない贈り物に、鈴木は「私が皆さんにサプライズを用意していたのに、逆に驚かされてしまいました。でも、こんなに素敵なお花をいただけて本当にうれしいです。フキちゃんには黄色のイメージがあるので、この花束を見るとフキちゃんを思い出します」と、笑顔で喜びを語りました。
物語 1980 年代後半のある夏。11 歳のフキは、両親と3人で郊外の家に暮らしている。ときには大人たちを戸惑わせるほどの豊かな感受性をもつ彼女は、得意の想像力を膨らませながら、自由気ままに過ごしていた。ときどき垣間見る大人の世界は、複雑な感情が絡み合い、どこか滑稽で刺激的。闘病中の父と、仕事に追われる母の間にはいつしか大きな溝が生まれていき、フキの日常も否応なしに揺らいでいく――。 ![]() |