完成報告会見
日付:2025年8月5日(火) 16:00
場所:丸の内TOEI①
登壇:西島秀俊、グイ・ルンメイ、真利子哲也(敬称略)
映画『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』の完成報告会見が、8月5日(火)に都内で行われ、主演の西島秀俊、共演のグイ・ルンメイ、そして真利子哲也監督が登壇しました。
本作は、ニューヨークで暮らすアジア系の夫婦を中心に展開するヒューマンサスペンス。ある日、息子の誘拐事件が発生したことをきっかけに、夫婦がそれぞれに抱えていた秘密が次第に明らかとなり、家族の関係が揺らいでいく姿が描かれます。
主人公を演じるのは、アカデミー賞受賞作『ドライブ・マイ・カー』や、A24制作のシリーズ『Sunny』などで国際的に高い評価を受けている俳優・西島秀俊。
その妻役には、ベルリン国際映画祭で最優秀作品賞を受賞した『薄氷の殺人』や『鵞鳥湖の夜』などに出演し、台湾を代表する実力派女優として知られるグイ・ルンメイが起用されています。
監督は、日本映画界で独自の作品世界を築き、熱心な支持を集める真利子哲也監督です。
本作では、誘拐事件という衝撃的な出来事を通じて、ニューヨークという多様性あふれる都市の中で人々が直面する「見えない壁」や「孤独」、さらには「人と人が分かり合うことの難しさ」といった普遍的なテーマが丁寧に描かれており、国や文化を超えて多くの観客に届けられる作品となっています。
西島は、真利子哲也監督の作品の魅力について、「人間の根源的なエネルギーや本能のようなものを突き詰めていて、時にそれが哲学的に感じられる瞬間がある」と語りました。
これまでの監督作では、登場人物たちの身体的な衝突などが印象的に描かれてきましたが、今回の作品については「また別の方向、次のステージへと進んだ印象があります。言語や文化、あるいは運命的に訪れる“暴力”のようなテーマに、監督が新たに向き合っているように感じました」と話し、本作が新境地となったことを感じ取った様子でした。
また、撮影現場での真利子監督の演出スタイルについては、「カメラや俳優の動きが完璧に揃った瞬間を目指すというよりも、むしろ一度しか起こらないような突発的な出来事や、一見ミスや偶然に見えるような瞬間を積極的に捉えようとしている」と述べ、その柔軟かつ即興的なアプローチに言及しました。
一方、グイ・ルンメイは、「監督は、とても優れた“耳”をお持ちだと感じました」とコメント。
「俳優の声のトーンやイントネーションから、監督は何かを感じ取っていらっしゃるんです。現場でもよく『皆さんの演技を見て、私はこう感じました。でも、別のアプローチで試してみてもらえますか?』といった提案がありました」と、言葉の壁を超えて感情の変化を鋭く読み取る演出に、深い感銘を受けた様子を語りました。
本作が誕生した背景について、真利子哲也監督は「アメリカに滞在していた後にコロナ禍が起き、世界が大きく変わった」と振り返り。
「多くの人が、日常や大切なものを失うような体験をしたと思います。その経験がきっかけとなり、夫婦や“愛”というものを改めて描いてみたいと思いました」と、本作に込めた思いを語りました。
全編ニューヨークで撮影が行われた本作。西島は、雪の中でのシーンについて「実際に雪が降っていて、本当に寒かったです。想像以上の寒さでした」と当時の厳しい撮影環境を回想。
さらに「監督が選ばれたロケーションは、多くの方が思い浮かべる華やかなニューヨークとはまったく違いました。たとえば歴史のあるチャイナタウンや、かつて人々が生活していた名残を感じられる場所など、人の営みが染みついた風景の中で撮影されたことがとても印象的でした」と、ロケーションの持つ力を語りました。
グイ・ルンメイもまた、ニューヨークの街が持つ雰囲気について「とても多様性に富み、包容力のある街だと感じましたが、一方で一人ひとりの孤独も強く感じました」と述べました。そして、「その孤独感が、自分たちが演じた登場人物たちの背景と重なっていたように思います」と、撮影地の空気が役作りにも深く影響したことを明かしました。
本作では多くのシーンが英語で演じられていますが、西島は「現場に入る前は不安もありましたが、いざ撮影が始まると、その不安はすっかり消えていました」と語り。
その理由について、「グイ・ルンメイさんがとても自然な感情で演じてくださったおかげで、自分も思っていた以上に演技の内面に集中することができ、言葉がその後についてくるような感覚で演じられました」と述べ、共演者との信頼関係が大きな支えになったことを明かしました。
一方でグイ・ルンメイは、英語で演じるうえでの工夫について触れ、「英語の脚本を理解する際には、日本語の原文ではどのようなニュアンスや表現なのかを監督に丁寧に確認しながら、それを英語に落とし込む作業を重ねていきました」と、言語を超えた役作りへの姿勢を語りました。
国際的な作品への出演が続く西島は、今回の経験を通じて「海外の企画で、異なる国の人々が集まる現場というのは、非常に挑戦しがいがあり、想像以上に豊かで、互いに理解し合える素晴らしい時間を過ごせるものだと、改めて感じました」と振り返りました。
そのうえで、「映画をつくるという行為そのものが、大きな“共通言語”になっていると実感しています。その手法は、世界のどこであっても、実はあまり変わらないのだと思います」と、国境を越えた映画制作の普遍性にも触れました。
会見の最後に、真利子哲也監督は「アメリカという場所で、西島さんもルンメイさんも本当に素晴らしい演技を見せてくれました。この作品は、観る方の立場や視点によって印象が大きく変わる映画です。観た後に誰かと語り合っていただけたら嬉しいです。私自身も、ラストシーンには心が震えるような思いがありました。ぜひ楽しみにしていただければと思います」とコメントしました。
グイ・ルンメイは、「久しぶりの来日となりましたが、お集まりいただいた日本の皆さんに心から感謝しています。本作で描かれる二人の関係には、さまざまな問題や課題が浮かび上がってきますが、すべてを経てもなお“愛”があると感じています。ご覧になる皆さんそれぞれの立場から、その愛をどう受け取るか、感じていただけたら嬉しいです」と語りました。
そして西島は、「過去にとらわれて前に進めずにいる方、自分にとって大切なものが周囲から理解されずに苦しんでいる方、やりたいことと現実との間で葛藤している方──今、懸命に生きているすべての方に、この映画を届けたいと思っています」と語りかけるようにコメント。
「この作品は、人によっては“希望の光”のように映るかもしれませんし、あるいは何も解決しないように見えるかもしれません。それでも、ラストにはどこか不思議な爽快感があります。登場人物たちが困難の中でも懸命に生きる姿を、ぜひ劇場で見届けていただけたらと思います」と締めくくりました。

出演:西島秀俊 グイ・ルンメイ
監督・脚本:真利子哲也
配給:東映
©Roji Films, TOEI COMPANY, LTD.
『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』
公式サイト:https://d-stranger.jp/