この度、8月16日には香川県高松市の「女木島名画座」で上映会が開催され、横浜聡子監督が瀬戸内国際芸術祭総合ディレクターを務める北川フラム氏と共にトークイベントに登壇した。

また、「女木島名画座」のスクリーンサイズについて触れ、「一般的な映画館では横長のワイドスクリーンが主流ですが、この会場では昔ながらのスタンダードサイズが採用されています。本作はスタンダードサイズが作品世界に合うと思って作ったので、偶々なのですが、ぴったりのサイズでご覧いただける環境で嬉しいです」と喜びを語った。
本作の和田プロデューサーが、瀬戸内国際芸術祭総合ディレクターを務める北川フラム氏へ直接協力を依頼したことがきっかけとなり、小豆島に点在するアート作品が映画内に度々登場し、通常の映画制作では不可能に近い規模のコラボレーションが実現した。北川氏は、「瀬戸内国際芸術祭(以後、瀬戸芸)で映画を応援するの初めてのこと。瀬戸芸の関係者一同でこの映画を観て、“良いね”“ぜひ多くの方に観ていただきたい”となり、参加していただくことになりました」と経緯を説明。
今回、上映会場となったISLAND THEATRE MEGI 「女木島名画座」は、瀬戸内国際芸術祭2016で女木島に誕生した、ニューヨーク42番街の古いタイプの映画館をイメージした作品。狭いけれどもゆったり映画を観られる記憶のエッセンスが詰まった空間がつくられて以来、現在も見学客に開放されているほか、上映会を年に3回ほど行っている。ニューヨーク在住のアーティスト依田洋一朗氏の「島に映画館をつくろう!」という提案をもとに、建築家の梅岡恒治氏と林幸稔氏が参加して出来上がった。名画座の装飾や壁面いっぱいに掛けられたおよそ50枚を超える往年の銀幕スターたちのドローイングを見ると、映画への愛情がひしひしと伝わってくる施設として多くのファンに愛されている。
映画制作のプロセスについて、横浜は「一人で完結するアートとは違い、映画は最初から多くの人が関わる」と話し、かつては他者の意見に振り回されることを恐れ、自分の思い通りにいかないことに苦しんだこともあったと振り返った。しかし近年は、「さまざまな意見や偶発的な変化を受け入れることで、むしろ作品が豊かになっていくと実感している」という。本作でも、シナリオから変更し、ラストは登場人物が絵を描く日常的なシーンへと差し替えたと明かした。横浜の話を受けて「作品は半分以上が環境や人との関わりで変わっていく。だからこそ強い作家性や確かな技術がないと、ただ流されてしまい、作品が壊れてしまう。それはアートも同じです」と北川もコメントした。
また、自身の映画との出会いについて質問されると、横浜は「幼少期は映画館へあまり言った記憶はなく、最初に映画館で観たのはアニメ映画『はだしのゲン』だったと思います。父親がレンタルビデオ店で借りてきた映画を一緒に観る機会が多く、名画が好きだったみたいでヒッチコック作品等に自然に触れていたことが、映画への関心に繋がったと思います」とコメント。
ロケ地に小豆島を選んだ理由は「青森県出身の自分にとって、明るい光に溢れる瀬戸内はまるで夢の国のような憧れの場所」だったといい、実際にロケハンで訪れた際には、自然の強さに圧倒され、その魅力を作品に取り入れたいと感じたと振り返る。
先日行われた小豆島凱旋上映会について尋ねられると、「小豆島には映画館がなく、住民の皆さんは高松まで足を運ばなければ映画を観ることができません。上映会には800人ほどの島民の方にお越しいただくという盛況ぶりでした」と笑顔を見せた。また、観客が自由におしゃべりしながら鑑賞する姿が印象的だったといい、「映画に集中して観てもらいたいというのはもちろんありますが、その人自身が好きなように楽しんでもらえるのも嬉しいなと感じました」と思いを述べた。
劇中で描かれている“東京への憧れ”について問われると、自身の経験を重ね、「若い頃はとにかく東京に行きたい一心でした」と吐露。離れてみて初めて地元の良さに気付くことができたといい、地方と都会の距離感を作品に込めた意図を明かした。また、北川氏が、「横浜監督のこれまでの映画の多くで、青森の方言が使用されているが、それが聞き取れないぐらいのリアルで、これはすごい映画だと思った。ぜひ皆さんにも観ていただきたいです。」と話した。
最後に、横浜は「今日は皆さんと直接お会いできて、率直な感想をいただけたことが何よりの喜びです」と改めて感謝を伝え、会場は大きな拍手で包まれた。
物語 アーティスト移住支援をうたう、とある海辺の街。のんきに暮らす14歳の美術部員・奏介(原田琥之佑)とその仲間たちは、夏休みにもかかわらず演劇部に依頼された絵を描いたり新聞部の取材を手伝ったりと毎日忙しい。街には何やらあやしげな“アーティスト”たちがウロウロ。そんな中、奏介たちにちょっと不思議な依頼が次々に飛び込んでくる。ものづくりに夢中で自由奔放な子供たちと、秘密と嘘ばかりの大人たち。果てなき想像力が乱反射する海辺で、すべての登場人物が愛おしく、優しさとユーモアに満ちた、ちょっとおかしな人生讃歌。 ![]() |
原作:三好銀「海辺へ行く道」シリーズ
(ビームコミックス/KADOKAWA刊)
監督・脚本:横浜聡子
出演:原田琥之佑
麻生久美子 高良健吾 唐田えりか 剛力彩芽 菅原小春
蒼井旬 中須翔真 山﨑七海 新津ちせ
諏訪敦彦 村上淳 宮藤官九郎 坂井真紀
製作:映画「海辺へ行く道」製作委員会
配給:東京テアトル、ヨアケ
2025年/日本/スタンダードサイズ/5.1ch/140分/G
©2025映画「海辺へ行く道」製作委員会