同日のドルビーシネマ公開を記念して、原案・脚本・監督を務めた押井守氏が上映後舞台挨拶に登壇。4Kリマスターの総監修を務めた経緯や監督と演出の違い、ドルビーシネマで本作を鑑賞した際の感想などが語られた。
この度、11月14日(金)のドルビーシネマ公開を記念し、原案・脚本・監督を務めた押井守が上映後舞台挨拶に登壇した。ドルビーシネマという最高の環境で鑑賞した観客たちの熱狂的な拍手に迎えられ、公開初日にふさわしい熱気に包まれたイベントとなった。
イベント冒頭、MCの吉田は、本作を深夜上映で初めて鑑賞したと明かし、押井監督の大ファンである一方で「正直に告白しますと、寝ました」と率直に語った。それを受けて押井は「映画を見て寝落ちするのは全然恥でも何でもなくてですね。あえて言うと、寝落ちする映画は傑作であると、私は思っております」と語り、さらに「寝てもらって全然構わないし、ただしお金は返ってこないので(笑)」とつづけ、観客の笑いを誘った。

「機動警察パトレイバー the Movie」や「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」など、多くの監督作がリマスター化されてきた押井監督だが、今回4Kリマスターの総監修を務めた経緯について「美術監督の(小林)七郎さんや、色指定の保田(道世)さんたち専門家が見るべき作品なんですが、亡くなられているので、私がやるしかないということで全カットをチェックさせていただきました」と語る。そこまで力を入れた理由について「自分で言うのも何ですけど、世にうまく出してあげられなかった、娘のようだとよく言うんですけど。40年経って手元に戻ってきて、もう一度きれいにお化粧直して、もう一回世に出してもらえるということなので。親として責任があるな」と熱い思いを述べた。
1985年にOVAとして発表された本作だが、制作当時はOVAというものについて誰もが手探り状態だったという。徳間書店には「やりたいものをやってよろしいでしょうか。その代わり責任は取ります」と話したという。その説得時間には、本編尺71分より長く2時間程かかったという話も上がり、観客の笑いを誘った。MCからその際に勝算というのは?と聞かれると「ありません」ときっぱり(笑)なぜそこまでして制作したかったかと聞かれ、「やってみたいことだったから」と振り返る。続けて「自分なりにアニメーションというものに自信を持ち始めた時期だったんです。今までのアニメーションとは違うストーリーやキャラクターではなく表現力そのもので映画を成立させたい」とアニメーションに対する思いがあったようだ。本作の制作前に「うる星やつら 2 ビューティフル・ドリーマー」が成功し、「イケイケになっていた。何でもできると思った」と当時を振り返る。
つづいて実力のあるスタッフ陣がクレジットに名を連ねていることに関して尋ねられると、押井は「一人ひとり説得して頼んだ」と当時の秘話を明かした。「この作品をやって一番喜んだのは、多分スタッフ」「クリエイティブの可能性を追求している方には、やりがいというものを提供できた」と回顧した。
話は監督と演出の違いについての話題になり、押井は「監督は映画を成立させることも仕事なんですよ。演出家っていうのは、与えられた仕事で、いわゆるディレクションする。監督というのは、今までやったことない映画も含めて映画を成立させる」と自身の仕事について述べた。「監督の仕事は商業的に成功すればいいと思っている人が多い。だけど監督の勝敗を僕はそうではないと思っているから。10年後、20年後もまだ残っている。私はむしろそちらの方が大事だと思っている」と押井は監督業についての持論を語った。本作についても「40年前だけど、OVAとして制作した作品が映画館で上映している。ある意味私は時間との闘いに勝った」と達成感に満ちた表情を見せた。
押井が好きな言葉は「燃えて溶けてなくなる」だと明かし、つまり、フィルムが物質としてなくなるが、その映画を観たという記憶が残る。そして、そのうちその人も亡くなった後、その記憶自体がなくなる、と映画の在り方を語る。「僕が生きている間は残っている。僕のファンが生きている間もまだ残っているかもしれない。そのあとはわからない。なかなかいいものだと思う。建築だったり彫刻だったり、いずれはなくなる物なんだけど、そういうものよりはるかに儚いものが映画なんですよ」と、映画の魅力を語った。
音に関しても、「もともとモノラルをミックスしているので、音響さんが頑張ってくれて、何とかセリフだけクリアに抜き出して。昔のものを再現しながら新しい次元に持っていくというのは難しい」と音響リマスター制作の苦労を振り返る。「音響のスタッフもやっていなかったことをやってみて成功させたいという思いがあった。ゼロから作るのとは違うけど、やっぱりクリエイティブな欲求と力が必要だった」と制作当時との共通点もあったと述べる。
最後にドルビーシネマで本作を鑑賞した際の感想を聞かれた押井は、「真っ先に思ったのは、何人かこの世に存在しない方たちが、もし今日この日にいてくれたら、たぶんきっと喜んでくれただろうということです。黒の中にも黒のディティールがあるんですよ。ベタな黒は存在しないわけ。今回それが初めて見えたんじゃないかな」と共に作品を生み出したスタッフへの想いを語り、舞台挨拶を締め括った。

天使のたまご 4Kリマスター
11月14日(金)ドルビーシネマ先行公開、11月21日(金)全国順次公開
提供:徳間書店
配給:ポニーキャニオン
公式サイト:https://angelsegg-anime.com/





