◇日 時:2025年6月28日(土)
◇場 所:歌舞伎座ギャラリー内 木挽町ホール
◇登壇者:・柴山 哲治(株式会社AGホールディングズ 代表取締役)※オークショニア
・井上 貴弘(松竹株式会社 取締役 常務執行役員)
・辻 正夫(松竹衣裳株式会社 常務取締役)
・関 慶人(藤浪小道具株式会社 執行役員 演劇部長)
・山中 隆成(歌舞伎座舞台株式会社 製作部 部長)
【出品物】
・【衣裳】赤綸子雲霞枝垂桜繍振袖着付(あか・りんず・くもかすみ・しだれざくら・ぬい・ふりそで・きつけ)
(『京鹿子娘道成寺』より)
・【衣裳】黒縮緬駕籠目に菊染物柄裾模様赤縮緬裾振袖着付(くろ・ちりめん・かごめにきく・そめものがら・すそもよう・あか・ちりめん・すそ・ふりそで・きつけ)(『弁天娘女男白浪』より)
・【小道具】中啓(『京鹿子娘道成寺』より)
・【小道具】振り鼓(『京鹿子娘道成寺』より)
・【小道具】番傘(『弁天娘女男白浪』より)
・【大道具】背景画額装(『京鹿子娘道成寺』より)
・【押隈】隈取(『菅原伝授手習鑑 車引』より)
・【押隈】隈取(『連獅子』より)※小道具、大道具は実際に襲名披露興行で使用されたもの。
衣裳につきましては、オークション成立後に襲名披露興行と同一のものを新たに制作し、お渡しいたします。
松竹株式会社(以下、松竹)が創業130周年を記念し、エンタテインメントの制作を支えるスタッフや職人の技と魅力を発信し、活躍の場をさらに広げることを目的としたプロジェクト『松竹アーツアンドクラフツ』を始動。
その第一弾企画として『松竹創業130周年記念オークション』が、6月28日(土)に歌舞伎座ギャラリー内の木挽町ホールにて開催された。
オークションには、2025年5・6月に歌舞伎座で行われた尾上菊之助改め八代目尾上菊五郎襲名披露、尾上丑之助改め六代目尾上菊之助襲名披露『團菊祭五月大歌舞伎』『六月大歌舞伎』に関連した衣裳・美術・小道具等が出品。歌舞伎において「襲名」とは、名跡・技・心を継承していく大きな節目であり、大名跡である「尾上菊五郎」の襲名披露興行で使用された伝統と想いが詰まった貴重な逸品となる。松竹130年の歴史において、襲名披露興行で使用した品々がオークションに出品されるのは初となり、歌舞伎ファンからはもちろんのこと、日本の伝統文化を継承していく機会としても大きな関心を集めた。
開催に際し、最初に松竹 取締役 常務執行役員 井上貴弘氏があいさつ。
創業以来、初の貴重な機会であるとともに、普段は客席から舞台上にあるものを見ることしかできないものを間近に感じられることの貴重性にも触れる。その上で、今回の品々を手掛けた“職人”の仕事に大きな感謝を示し「このオークションを機に伝統芸能を守っていく職人さんの技量というものに注目していただいて、ぜひ応援していただきたいと思っております。収益の一部は職人さんに還元し、我々も日本文化に対して貢献をさせていただきたいと思っております」と述べた。
続いて、オークショニアが流れを説明。
今回は史上初の試みであるため「歴史を皆さんと一緒に作る」と盛り上げ、ついにオークションがスタートした。
一品目は「中啓」。
先が開いた形の扇で、『京鹿子娘道成寺』の金冠の舞とも中啓の舞とも呼ばれる部分で使用されたもの。絵柄は俳優により異なり、今回は菊五郎(音羽屋)の牡丹の柄で、襲名に合わせて新規に作られた。藤浪小道具株式会社 執行役員 演劇部長 関 慶人氏は、特別仕様で扇の面の下側の部分に金の箔が入っていると説明。八代目尾上菊五郎ら俳優も交えた話し合いの上で制作されたと話した。
入札は事前にオンラインでも行われており、その金額と会場での提示金額とで高額となったほうが落札となる。「中啓」は50万円からスタートし、会場にて55万円で落札された。
二品目は「振り鼓」。
『京鹿子娘道成寺』で使用されたもので、鈴太鼓とも呼ばれ、両手に持って打ち鳴らしながら踊る際に使う。中に鈴が入っており、振ると鈴の音がする。関氏によれば、俳優に合わせて全体の円の大きさや、指を入れる部分が違うとのこと。八代目尾上菊五郎仕様になった貴重な品は、45万円で落札された。
三品目は『弁天娘女男白浪』で使用された「番傘」。
「志ら浪」という文字が書かれたもので、今回は現在11歳の六代目尾上菊之助らが使用するため、少し小振りに作られ、柄の太さや長さも普段の番傘とは違うとのこと。こちらは20万円からのスタートだったにもかかわらず、38万円で落札となった。
四品目から六品目は『京鹿子娘道成寺』で実際に使用された背景画の一部を、パネル画にして出品。
「三重塔」「仁王門(山門)」と満開の「桜」が描かれた三品。「三重塔」は畳一枚分、「仁王門」「桜」は畳二畳分ほどの大きさで、裏には八代目尾上菊五郎のサインが入れられている。それぞれ32万円、20万円、20万円という金額で落札された。
そして、今回のオークションの目玉とも言える衣裳からは、『京鹿子娘道成寺』の赤綸子雲霞枝垂桜繍振袖着付と、『弁天娘女男白浪』の黒縮緬駕籠目に菊染物柄裾模様赤縮緬裾振袖着付が出品。衣裳に関しては実際に使用されたものではなく、オークション成立後に襲名披露興行と同一のものが新たに制作される。職人の手仕事による一点もので、しかも、このように襲名披露興行で使用された同一のものが一般に販売されることはこれまで一度もなかっただけに、非常に貴重なものとなる。
赤綸子雲霞枝垂桜繍振袖着付は、織物の一種である綸子(りんず)の生地を赤く染め、雲霞としだれ桜の刺繍を金糸などで施した振袖の着物(着付)。こちらはスタートが1000万円という高額スタートとなったが、会場にて1100万円で落札された。この日最高落札金額となった。
黒縮緬駕籠目に菊染物柄裾模様赤縮緬裾振袖着付は、黒い絹織物の一種縮緬に、駕籠目と音羽屋にちなむ菊が裾にかけて染められた振袖の着物(着付)で、裾に赤い縮緬が用いられている。
松竹衣裳株式会社 常務取締役 辻 正夫氏によると、昨今の材料や職人不足により、昔の色に近い黒色を出すことはかなり困難とのこと。さらに、友禅染の技術で色付けされており、職人が少しでもミスをすれば、すべてが最初からやり直しになるという繊細な作業の上に出来上がったものだという。こちらは事前入札者により300万円で落札された。