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江戸川乱歩・「蟲」公開記念舞台挨拶

江戸川乱歩没後60周年記念作品『RAMPO WORLD』と題して乱歩の作品を原案に設定を現代に変え、オリジナル解釈を加えた『3つのグノシエンヌ』(10月3日(金)公開)、『蟲』(10月17日(金)公開)、『白昼夢』(10月31日(金)公開)がシネマート新宿、池袋シネマ・ロサほか順次公開。

10月17日(金)より公開となった「蟲」は、10月18日(土)に池袋シネマ・ロサにて公開記念舞台挨拶が実施され、佐藤里菜、木口健太、北原帆夏、細川佳央、橋野純平、 中山求一郎、山田キヌヲ、平波亘監督が登壇し、作品の魅力をアピールしました。
そして当日、舞台の本番中で登壇できなかった主役・征木愛之助役の平埜生成から観客に向けたコメントも到着。

江戸川乱歩没後60周年記念作品「蟲」上映後、舞台挨拶ではそれぞれ公開した喜びを噛み締めながら、一人ずつご挨拶をしていきました。
それぞれが演じた役に印象に残っているシーンについて質問されると、主人公の自称映画監督・征木愛之助が好意を寄せることになるヒロイン・木下芙蓉役の佐藤が「正直、全部大変でしたが、追いかけられるシーンであんな(多い)人数に追いかけられることも滅多にないのでワクワクしていたんですが、テストのときに私が足が遅すぎて追い抜かれるハプニングがありました」と会場を笑わせました。
佐藤を追いかけた芙蓉のファン役・田子坂充役の中山も「追いかけていなかった木口くんもモニターを見ながらニヤニヤしてました」と明かされ、平波監督からも「何回も撮りなおしました」とコメントも。
征木の友人・池内光太郎役の木口は、ほかの作品での共演者がいたこともあり「みんなと一緒にできることが嬉しくて、自分が出てないシーンでも(撮影を)見に行ったりして、めちゃくちゃ楽しかったです。わけわかんないことをやっているシーンで笑いそうになったのを我慢したりしていました。(笑いを我慢する)苦労がありました」と笑いのある現場であったことを振り返り「演じていたシーンの記憶は何ひとつもありません!」とコメントし笑わせました。
小林役の北原は「芙蓉の舞台を征木と池内が見ているシーンで、後ろの方で(中山)求一郎さんが映り込んでいるシーンがあって、なんでこんなに面白い表情しているんだろうって思いました」とコメントし、平波監督からも台本の中で「4 回目ですよ。観るの」というセリフによって、当初は予定になかったシーンにも出てもらった秘話が明かされました。

ここで、MCにより主役・征木愛之助役の平埜から、共演者へのコメントが代読されました。
平埜から見ると、役と正反対の人が多かった話が多い中、細川は役とリンクしていたとのコメントに「あの頃、じいちゃんが死んでいたのでギラギラ感は収まっていたかなって思っていたのですが違ったんですね。逆に生命力が上がっていたかもしれないです」と話すと平波監督からも「お芝居を抑えることしましたもんね」とギラギラしていたことが明かされました。

平埜コメントに「佐藤さんに助けられた」とあったことから、佐藤に現場での平埜の印象を質問すると「私が助けられました。初のヒロイン役で大きい役をいただいたので、とにかく緊張しまくりでした。そこで、平埜さんがずっと笑顔でいらっしゃってくれたので良い人です」と話しました。

続けて、平波監督からの平埜の印象は「平埜くんも征木の役とは本当に真逆で太陽みたいな方だったので、彼と征木という役を作り上げることができて良かったです」としみじみとコメントを寄せました。
さらにMCから征木は平波監督に似ているところがあると話を振られると「そうなんです。平埜くんが僕の動きとか癖とか真似したと言っていて、今日僕も客席から見たんですが、これが俺か!って気持ちになりました」と話し会場を笑わせるも「征木という人物は映画監督でもあり映画というものに縛られているので、敢えて(本編でも)DVD とかではなくVHSを使いました」と小道具にも拘りを持たせたことをコメントしました。

江戸川乱歩没後60周年記念作品「蟲」最後に、それぞれからコメント。
平波監督は「江戸川乱歩没後 60周年作品として、企画・製作されて原案として現代に置き換えて作品にすることに、自分の中で敢えてこの時代に挑む意味だったり、少しセンシティブだったりカオスだったり台詞だったりが、江戸川乱歩自体の魅力だと思うので、そこにどうやって現代性と自分の作家性をもって作れるのか。素晴らしいキャストの魅力をどれだけ引き出せるのかってところを、考えながら撮った作品なので、僕自身もまだ客観的に咀嚼しきれていない部分もあるのですが、褒めていただいても貶していただいても構いませんのでいろんな感想をお聞かせいただけたら嬉しいです」と、今の気持ちを語りました。
北原は「生きていく中で、心が動く出来事とか物事に出会う瞬間って予想外なので、そのために自分の心を持ち合わせた色で出していくような感覚があるのですが、この作品を見たときに色使いとかがすごく印象的だなと感じて、この作品に出会ってくださった皆様が、この作品をどんな色で彩っていくのかなって興味があります。私にとっては不穏な作品ではありますが、私の中では澄んだ青空みたいな色として残っているものなので、ぜひSNSなどで感想をいただけたら楽しみに読みたいです」と作品を色に例えてコメントしました。
木口は「今日、こうして作品を見に来ていただいた方の中には、平埜くんを見に来られた方もいると思いますが、個人的にやり取りをさせていただいて「どうしても行きたかったけれど、来れなかった」みたいなことがあって、現場で近くにいるときも初主演で苦労していたし、脚本読みの段階から平波さんに質問などしていて、平埜くんなりに征木という役を見つけて演じた作品なので、(今日)来たかったと思うので、その気持ちも背負ってここに立てればと思っていました。観た方には、平埜くんのそういう誠意のようなものが伝わればいいなと願っております」と平埜への気持ちを明かし、さらに「僕はこの映画の音楽がすごく好きです。音楽に合わせた編集の仕方とかもかっこいいなと思うので、また観る際には、そういうところにも注目してみていただけたら嬉しいです」と見どころも伝えました。
最後にヒロイン役の佐藤は「私にとって初のヒロインだったので、平波監督、キャストの皆さん、スタッフの皆さんと愛のこもった素晴らしい作品ができたなと私は思っています。大好きな作品なので、みなさんにもそう思っていただけたらなと思います。感想も見にいくので、Xなどでつぶやいていただけたら。よろしくお願いします。本日はありがとうございました」と感謝の気持ちと作品への想いを話し舞台挨拶は終始和やかに行われました。

平埜生成コメント

【池袋シネマ・ロサ】
・共演の皆さまの印象は?
作品のディープさとは裏腹に、「ほんわか」「のんびり」「ふかふか」といった言葉をイメージさせるような方々ばかりでした。中でも、一番、「ほんわか」されていたのは平波監督で、印象的だったのは「ちいかわグッズ」を身につけ、同じく「ちいかわ」好きのスタッフさんと一緒に写真を撮り、SNSにアップしていたこと。作品の雰囲気からは想像つかないほど穏やかな現場でした!
佐藤さんは、とても気さくな方で、「あれ?昔から知り合いだっけ?」と錯覚してしまうほど。そして、なぜかは分かりませんが、言葉の端々から「ギャル」の要素を感じることもあり(笑)、一緒に撮影をしていて楽しかったです。今回の撮影で最も過酷な役を演じられているのに、ずーっと笑顔で現場にいらしたのが印象的で、佐藤さんに助けられてばかりでした。
木口さんは頭がよくて、とってもダンディ。でも、どこか天然さがあるというか、人を疑うことを知らないような、ピュアな印象を受けました。劇中のウジムシを異常なほど嫌がっている様子はダンディのかけらもなく、すごくチャーミングでした!
北原さんは、小林の正反対。明るくて、人懐っこくて、誰からも愛される、キラキラした魔性の魅力を持っている印象です。「一緒に狂ってもらえますか」なんて、絶対に言わなそう(笑)。
中山さんも役とは正反対の印象で、角が一切ないというか、誰とでも仲良くなれてしまう独特の親しみやすさがありました。色々な方から中山さんの話を伺ったことがあったので今回ご一緒できて嬉しかったです!
橋野さんは平波監督と関係が長いこともあるのか、座組の架け橋になってくださっていました。常にバランスをみて、分け隔てなく穏やかに話しかけて下さるので、楽しく撮影をすることができました。
キヌヲさんは、「ぬくもり」のある方で、人を気遣い、まっすぐ言葉を伝える、とっても優しい方。一人でいらっしゃる時は、静かに編み物をされていたので、その様子をみていて「AI の役のはずなのに、誰よりも人間らしいなぁ」と思っていました(笑)。一緒にいて、とても居心地よかったです!
すみません。細川さんだけは「ギラギラ」されていました。映画と一番リンクしていたように思います。すごい「ギラギラ感」でした(笑)。すでに役に入ってらしたのかもしれませんが、この場の空気を全て引っくり返すようなエネルギーがあり、それでいて、お芝居も素敵すぎたので衝撃を受けました!

・最後のメッセージ
個人的な解釈ですが、この映画は『愛』の物語だと思っています。柾木だけでなく、登場人物全員が愛の物語を生きている。池内と柾木。芙蓉と池内。小林と池内。アイ(AI)と柾木。映画愛。演劇愛。推し活愛。人間愛。そして、死体愛など……。多様な愛が詰まっていたのではないでしょうか。
美しい愛ばかりではなく、目を背けたくなるような、理解されない愛もあったと思います。でも、それも含めて全て「愛」と呼ぶのかもしれません。そんな愛の詰まった『蟲』という作品に出会えて、わたしは幸せでした。この柾木という役を、他の誰でもない「わたしが」演じることができて、本当によかったです。監督、キャスト、スタッフ、この映画に携わる全ての方々が、命を削り、魂を注ぎ、血を流し、ここまで来ることができました。この作品を、ご覧くださった愛する皆さまにお届けできたことを心より嬉しく思います。感謝の気持ちでいっぱいです。 映画『蟲』が、たくさんの方の胸に届きますように。

【シネマート新宿】
本日は、ご来場、誠にありがとうございます。柾木愛之助を演じました、平埜生成(ヒラノキナリ)と申します。舞台挨拶に登壇できず、誠に申し訳ございません。舞台の地方公演と重なってしまい、どうしても駆けつけることができませんでした。今は、和歌山の地で映画「蟲」の公開を祝福しています。和歌山にいますが、気持ちは、シネマート新宿にあります!!!そんなこともあり、今日は、コメントにて失礼させていただきます。どうぞ宜しくお願いいたします。
今回の映画は自分にとって初の主演映画ということもあり、特別な作品になりました。撮影が11月だったのですが、撮影が終わり、年が明けてからも映画『蟲』の夢を見てしまうほど、自分の中に、深く深く、この映画が突き刺さっている感覚が、今でもあります。それほどまでに、この映画『蟲』に魅了されていたのだと思います。取り憑かれていたと言ってもいいかもしれません。
この作品で、わたしが一番惹かれたテーマは『愛の多様さ』でした。この映画には、柾木が芙蓉(ふよ)に抱く「愛情」だけではない、登場人物それぞれが抱える、様々な「愛」が散りばめられています。美しい愛情から、目を背けたくなる愛情まで。ありとあらゆる大きな愛情が詰まっている。そんな『愛』に突き抜かれた人たちの物語に、わたしは首ったけでした。
しかし、大きな愛情の裏側には、激しいエネルギーも渦巻いているものです。わたしは、そんな愛の裏側にあるものを「変態性」と呼んでいますが、この映画には登場人物たちの「変態性」も、ふんだんに描かれています。また、平波監督自身の〈変態性〉も多く詰まっていると思います。
平波監督は、わたしたちには見えない「ナニカ」を見つめている変態、です。入念に打ち合わせはしますが、撮影中は『役として、そこに存在してくれればいい』という態度で俳優との距離を測ってらっしゃるので、基本的にはなにも仰りません。ハードなシーンに「カット」をかけた後も、静かに髪の毛をかきむしり、ニマニマと笑っているだけ。もちろん「OK」という声はかけますが、その声は、あまりにも淡々としているんです。
でも、監督は「ナニカ」をじっと見つめている。
その「ナニカ」は、完成した映画の全てのシーン、全てのカットに「監督の愛」として確かに映り込んでいます。宿っているといってもいいかもしれません。ぜひ、そんな監督の変態さも味わっていただきたいです。 そして、そんな監督の姿に胸打たれているわたしも、見事に変態なんだと思います。 いや、わたしだけではなく、登壇しているキャストの皆さまも、みな変態なんだと思います。そんな一面も、たくさんのぞかせていただきました。 佐藤さんも「変態」ですし、木口さんも「変態」です。北原さんだって「変態」ですし、細川さんも「変態」です。橋野さん「変態」、中山さん「変態」。そして、キヌヲさんは、「変態」の中の「変態」でした! すみません。全て「愛」と「敬意」を持って、コメントしています!みなさん、大好きです。共演できて本当に幸せでした。そして、この作品に出演できて、柾木を演じることができて、本当によかったです。 長くなりましたが、最後に。 本日はご来場、誠にありがとうございます。 監督、キャスト、スタッフ、この映画に携わる全ての方々が、命を削り、魂を注ぎ、血を流し、ここまで来ることができました。この愛おしい物語を、今から愛する皆さまにお届けできることを、心より嬉しく思っています。 映画『蟲』が、あなたの胸を力いっぱい突き抜くことを祈っています。

阪元裕吾監督ら著名人よりコメント到着

阪元裕吾(映画監督)
今年見た中でもっともゾッッッッとした映画でした!!!
日本のホラー映画愛好家の皆さん!!!
「蟲」を見ずして年は越せませんよ!!!
『中途半端な人間の行動が最悪の形で結実していく映画』が大好きな身としては、本当に全てがツボでした!!!
クライマックスのあの「顔」は今年見たどんなホラーよりも恐ろしく、胸が張り裂けること間違いなしです!!!絶対映画館で見ましょう!!!

児玉美月(映画批評家)
映画の序盤、ヒロインが女 “美” と若さを求めてやまない欲望が見え隠れする群衆の言葉へとすかさず疑問を投げかけ、男たちを背にして駆け抜けていく姿が鮮烈だった。
その躍動する体が食い潰されてしまう前に、追いつかれぬように走れ、とつい願った。
狂気なのは果たして世界か、自分か──
映画に屹立する本質的な問いは、おそらくこの時代だからこそよりアクチュアリティを持つ。

宇賀那健一(映画監督)
平波監督が江戸川乱歩を撮ると聞いて「乱歩と平波さんは相性良さそうだなぁ」と思った。
でも相性とかそういうことじゃなかった。平波監督は乱歩を通して、現代と、自分と、自分への批評と、これまでの作品のその先をぶちこんで乱暴にかき混ぜてきやがった。後半のカオスなんて最高ですよ。
悲しくて美しくて愛おしい世界を、スクリーンで一人でも多くの人が浴びますように。

ヴィヴィアン佐藤(ドラァグクイーン、美術家)
都心のビルの眼下を流れるネオンとヘッドライトの川をバックにガラス越しに完成した屍体が、下町のレースカーテン越しの木造家屋へ女優として流れ着く。
思えば柾木が住む横十間川とは伊右衛門によって殺されたお岩の死体が眠る場所だった。
平波亘によって美しい光と影が、役者たちの横顔を照らし、闇に浸す。
まるで全編がインドネシアのワヤンの影絵芝居のようだ。役者全員が屍体か人形だ。
そもそも映画とは死者が労働しているに過ぎないのだから。

玉田真也(映画監督・劇作家)
映画全体に息苦しさと狂気が充満していた。
主人公の住む部屋は常にカーテンで閉ざされ、まるで繭の中のように見えた。その中で孤独に映画を作る姿が凄まじく、監督の情念が好戦的に溢れつづける90分だった。
これは絶対に映画館で観た方がいいと思います。

後藤健児(映画ライター)
蟲毒のように喰い合う男たちと女たちの異形な愛の物語だけど、この現代的な「RAMPO WORLD」の住人の誰かにはどなたも感情移入するはず。
そして、映画制作現場の最前線で奮闘してきた平波さんの“創作への思い”が脚本の行間からにじみ出ていた。必見。

江戸川乱歩没後60周年記念作品「RAMPO WORLD」作品情報

江戸川乱歩没後60周年記念作品「RAMPO WORLD」本格推理小説や怪奇・幻想小説の祖として後世に名を残した作家・江戸川乱歩。数々の推理小説を世に送り出す一方で、「人間椅子」「鏡地獄」など、怪奇、妄想、フェティシズム、狂気を滲ませた変格ものと称される作品も多く執筆している。今年没後 60 年を迎える江戸川乱歩の 3 作品を、「RAMPO WORLD」と題して長編映画化。晩秋の夜に、妖しくも美しい乱歩の世界へと誘う―。

公式X:@RAMPOWORLD https://x.com/RAMPOWORLD
公式Instagram:@rampoworld https://www.instagram.com/rampoworld/


江戸川乱歩没後60周年記念作品「RAMPO WORLD」『蟲』
2025年10月17日(金) シネマート新宿、池袋シネマ・ロサ他ロードショー

監督・脚本:平波亘
出演:平埜生成 佐藤里菜 木口健太 北原帆夏 / 山田キヌヲ
細川佳央 橋野純平 中山求一郎
原案:「蟲」江戸川乱歩

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