この度、6月29日に都内映画館でティーチイン付き上映会が実施され、中島歩と早川千絵監督が登壇した。
中島といえば、NHK朝ドラ「あんぱん」で主人公の夫・若松次郎役を演じ、多くの視聴者の心を掴んだことも記憶に新しい。本作では、主人公フキの母・詩子と仕事で知り合い、やがて親しくなる男性・御前崎透役として出演。11歳・フキの日常を、大きく揺るがす重要な役どころを演じている。
上映後の熱が冷めやらぬ中、数ある作品の中で『ルノワール』を選び、足を運んでくれたことへの感謝の気持ちを伝えた早川監督と中島。
イベントの冒頭で、本作の感想を聞かれた中島は「美しい映像と音、シーンの繋がりが素晴らしくて、視覚的にも聴覚的にも満たされる映画体験でした。作品の真ん中にフキがいて、彼女を見つめるうちに、心が揺さぶられていった。」「今の僕にはすごく刺さる作品でした」と感想を語るや、率先して早川監督に映画について質問を重ねた。
「前回の『PLAN 75』のように明確な説明があるというよりは、イメージを積み重ねて作品を作られたのですよね?」と尋ねると、早川監督も「今回は、“感情を描きたい”と考えながらイメージを練りました」と語り、撮影後の編集段階で様々な気づきがあったことを振り返った。
また、中島は「唯さんの奔放さに嫉妬した。とても魅力的だった」と語気を強めた。「先日、相米監督の『台風クラブ』を見返したのですが、その時の工藤夕貴さん然り、今回の唯さんにしても、“演技のマナーが身についてしまう前”の生々しい佇まいに魅了されますよね」と述懐すると、監督も深く頷きながら、「なぜあんな風にカメラの前で演じられるのか」と思わず鈴木本人に尋ねた時のエピソードを明かした。公開を経てようやく監督と語り合える喜びから質問がとまらない中島は「僕ばかりではなく、客席の皆さんにも質問していただかない…」と我にかえり、会場は笑いに包まれた。
早速、客席から「本作は、YMOの楽曲「RYDEEN」が流れるダンスシーンなど、印象的なシーンが多々ある中で、なぜ『ルノワール』というタイトルにしたのですか?」と質問が飛び出すと、中島が「ルノワールではなく、RYDEEN にしても面白かったかもしれませんね」とすかさず返し、早川監督は「80年代の少女の話でありながら、ルノワールというタイトルにすることで、ギャップを生み出したかった。また、カンヌで出逢ったある記者から、この作品は印象派の絵画のように、ひとつひとつの点描(シーンの繋がり)が、最後に1つの画として浮かび上がってくるという感想をもらい、確かに言い得ている」と語った。
また、ある観客から「中島さんが演じた役は、“こいつは怪しいな”ということが十分過ぎる程伝わってきて、とても楽しませてもらいました。役についてどのように準備されたのですか」と質問が挙がると、その感想に共感した多数の観客から笑いが起こる一幕もあった。
早川監督が、御前崎の幼少期も含めてバックグラウンドを詳細に考え、撮影前に中島に伝えた事と明かすと、「フキのお母さんを魅了する役だから、子供であるフキのことも魅了しなきゃと思いながら演じました」と中島。劇中で御前崎は、コミュニケーションに問題を抱える人々の為にセミナーを開く講師という設定なのだが、中島は 「実際にセミナーを開催している方にもお会いして、その時の優しそうな話し方、受講者との距離感から、インスピレーションを得ました」と話し、「御前崎の奥さんの派手な服装、奥さんと一緒にいる時の御前崎が車の運転席ではなくて、助手席にぽつんと座っていることから、彼がどんな男だか分かりますよね。それだけで彼の人物像を伝えられることが面白い」と語り、観客と笑い合いながら、自身の登場シーンを振り返った。
本作は、80年代後半のオカルトブームの最盛期が舞台となっている。主人公フキが、おまじないやテレパシーに夢中になる姿に共感した観客から「スプーン曲げや、2000年に地球が滅びることを本気で信じていた、自分自身の小学校時代を思い出しながら鑑賞しました」と熱い感想があがると、劇中でフキが母親と御前崎の関係を心配し、二人の関係を断ち切ろうとする、おまじないのシーンの話題に。フキが唱え続ける呪文は、ラテン語から着想を得ており、直訳すると「クモよ、いなくなれ!」という意味を持つこと、監督が生み出したオリジナルの呪文であることなどが明かされ、今までの舞台挨拶では語られなかった、詳細なシーンの裏話が飛び出した。
ティーチインの終盤、早川監督は「この作品は、起承転結がはっきりしているわけではなくて、小さな出来事が次々と続いていく映画です。何かひとつでも、皆さんが忘れていた記憶や子供の頃の感覚が蘇る、そんな映画体験になれば良いなと思っています」と観客にメッセージを伝えた。
物語 1980 年代後半のある夏。11 歳のフキは、両親と3人で郊外の家に暮らしている。ときには大人たちを戸惑わせるほどの豊かな感受性をもつ彼女は、得意の想像力を膨らませながら、自由気ままに過ごしていた。ときどき垣間見る大人の世界は、複雑な感情が絡み合い、どこか滑稽で刺激的。闘病中の父と、仕事に追われる母の間にはいつしか大きな溝が生まれていき、フキの日常も否応なしに揺らいでいく――。 ![]() |