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『アイム・スティル・ヒア』本編映像

抑圧の時代に、真実を語り続けた一人の女性の静かな叫び。世界が忘れた「声なき物語」が、いま再び蘇る。第97回アカデミー賞で、ブラジル映画初の国際長編映画賞を獲得したほか、主演女優賞、作品賞にもノミネート。名匠ウォルター・サレス監督(『セントラル・ステーション』『モーターサイクル・ダイアリーズ』)が手がけた最新作『アイム・スティル・ヒア』(8/8公開)より、<目に見えない恐怖>を浮き彫りにするため、重ねた音のレイヤーは20以上。<音>で突きつける心理的恐怖を生々しく映し出した本編シーン映像が解禁された。

1970年代、軍事独裁政権が支配するブラジル。元国会議員ルーベンス・パイヴァとその妻エウニセ(フェルナンダ・トーレス)は、5人の子どもたちと共にリオデジャネイロで穏やかな暮らしを送っていた。だが、スイス大使誘拐事件を境に政情は一変し、抑圧の波が市民を覆ってゆく。ある日、ルーベンスは軍に連行され、そのまま消息を絶つ。突然、夫を奪われたエウニセは、必死にその行方を追い続けるが、やがて彼女自身も軍に拘束され、過酷な尋問を受けることとなる。数日後に釈放されたものの、夫の消息は一切知らされなかった。沈黙と闘志のはざまで、それでもなお、彼女は夫の名を呼び続けた──。自由を奪われ、絶望の淵に立たされながらも、エウニセの声はやがて、時代を揺るがす静かな力へと変わっていく。

突如として軍に連行、消息を絶ったエウニセの夫ルーベンス。気丈に帰りを待ち続けていたエウニセと家族だったが、やがて彼女自身も娘とともに軍に拘束、頭巾を被せられ視界を奪われたまま、“どこか”へと連れていかれる。そしてその場所で、容赦ない尋問を受けるエウニセ。「彼は当時から共産主義者と関係が?」「なぜ今もテロリストと関係が?」――執拗に続く問いかけと暗闇から響く正体の見えない叫び声。映像は、身体的な暴力を越えて、精神がじわじわと追い詰められていく心理的恐怖を静けさと同時に生々しくあぶり出す、強烈なシーンとなっている。

近年のブラジル映画では、拷問シーンを直接的に描く作品も少なくないが、本作では暴力を視覚的に「見せる」のではなく、“音”によってその不在を際立たせる手法が取られているのも特徴的だ。こうした演出には、実際に父の失踪を経験した原作者マルセロ・ルーベンス・パイヴァの「拷問を描かないでほしい」という強い要望が反映されている。サレス監督はその想いを尊重し、「見せないものが、しばしば最も強い印象を残す」という信念のもと、拷問の現場を映さず、暗闇に響く暴力の音だけで観客に伝える構成を選んだ。

その“音”の演出を最大限に引き出すため、音響チームによって重ねられた音声レイヤーは20以上。観る者の想像力を介して恐怖と不条理を深く浸透させるその手法は、まさに圧巻と言える。
「この映画を形にする七年間のあいだに、ブラジル社会は再び過去の暗い影へと危うく傾いた。まさにその現実が、この物語を「今」語らねばならないという切迫感を、私にいっそう強く抱かせた」――そう語るサレス監督は、「同じ過ちを繰り返さないための作品が必要だ」とも言葉を寄せており、その想いは、作品により深い響きを与えるものになっている。

【CAST&STAFF】
監督:ウォルター・サレス
脚本:ムリロ・ハウザー、エイトール・ロレガ
出演:フェルナンダ・トーレス、セルトン・メロ、フェルナンダ・モンテネグロ
音楽:ウォーレン・エリス|撮影:アドリアン・テイジド|2024年|ブラジル、フランス|ポルトガル語||137分|カラー|ビスタ||5.1ch|原題:AINDA ESTOU AQUI|英題:I’M STILL HERE|字幕翻訳:原田りえ|レイティング:PG12
提供:クロックワークス、プルーク 配給:クロックワークス
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